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タックさん

がんばる。

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座右の銘 明日の自分に期待は持たない。

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快走力走! 清掃レース 

18/06/25 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 タック 閲覧数:161

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校舎の廊下を、陽光が照らしている。
そのなかに姿勢を低くし、二人がレースの開始を待っている。
競技者は、トモヤとソウタ。
一年生のクラスメイトである二人は、最近「清掃レース」の対戦者となった二人だった。

スターターが手を振り下ろし、同時に床が強く蹴りだされる。
教室内から観戦する生徒たちの声が高まり、雑巾を手に、両者が廊下を駆けていく。
――「清掃レース」――その開始――
雑巾がけという掃除の名を借りたレースに、二人の競技者が身を投じた瞬間だった。



(……なに!?)

スタート直後に起きた異変に、競技者であるソウタはすぐに気がつく。
スタートダッシュに成功したのは、トモヤだった。それは異例のことである。
スタミナはあるものの、小柄で瞬発力に欠けるトモヤは追い込み型の走者であり、スタートを得意とする競技者ではなかった。
それが機先を制し、序盤からリードを広げていた。廊下を勢い良く磨いていた。
快走に生徒たちは沸き、歓声を送っていたが――ソウタのみが異様に感づき、眼光を鋭くしていた。
(……あいつ)
ソウタの前方をひた走るトモヤ。
その背後には、わずかに粘り気のある液体が残されていた。



(……ソウタ、ごめん。でも、僕は勝ちたいんだ。……だから)

トモヤは廊下を疾走する。
両手は雑巾を握り、体の支えとなって疾駆を後押ししていた。

――だが、トモヤの雑巾に含まれているのは水ではない。
含まれているのは、ローションだった。
ローションは摩擦を軽減し、レースを有利にしていた。加速をしやすくしていた。
足が滑らないよう、足を蜘蛛のごとく広げて走る「スパイダー・ラン」まで編み出し、トモヤはレースに臨んでいた。
掃除という大前提を反故にしてまで勝ちにこだわり、勝ちに狂っていたのだった。

(……絶対に、絶対に、負けたくないんだ)

――トモヤが雑巾がけの才覚に気づき、王者となったのは、高校入学以来のことである。
高校で雑巾がけを初めて体験し、遊びの一環で速度を競った際、平凡な日常は変化した。
隠された持久力と掃除の丁寧さはクラスメイトを驚愕させ、トモヤに勝つべく開催された清掃レースにおいてトモヤは圧倒的な勝率を誇り、瞬く間に王者へと君臨した。
敗北は、一度たりともなかった。

レースに全霊を注ぎ、廊下が綺麗になる様は充実を覚えさせ、トモヤを変えさせた。
また王者であり続ける日々は自信を与え、自分を凡人と定義していた過去を遠く感じさせた。

――だが、それもソウタが現れるまでの暫時のことに過ぎなかった。

(……なあ、面白そうだから、俺もやっていいか?)

一年生にして、ソウタはサッカー部のエースだった。
その抜群の運動能力を発揮し、ソウタは清掃レースに旋風を巻き起こした。
脚力を活かした速度に敵う者はなく、誰もがソウタの前にひれ伏した。
それは、常に勝利者であったトモヤも同様であり、絶対的な王者は敗者へと陥落した。
「清掃キング」の王冠はその持ち主を変え、トモヤの栄光は瞬時に過去へと流れていった。

(――トモヤ、お前、すげえ速いな! また、勝負しようぜ!……)

――トモヤは、初めて敗北を喫した際のソウタの笑顔を忘れることが出来ずにいる。
唯一の特技を奪われた、そのことが心に黒い火を灯し、掃除の意義を失わせていったのだった。



――清掃レースは短距離の争いであり、決着が早期に決まるレースである。
そのためレースは早くも終盤を迎え、トモヤがリードを保ったままでいた。
性質上、清掃レースに終盤の逆転は極めて少ない。
先行するトモヤが、勝利に限りなく近づいている状況だった。

(…………)

教室内の生徒たちが声援を送り、前王者の復活の予感に体を熱くしている。
――だが、全観客は気がついていない。
スタミナがあるはずのトモヤ、その顔が歪み、速度は徐々に低下の一途を見せていたことに。

突然、廊下に絶叫が響き、トモヤの目が見開かれる。
ソウタの心からの叫びにトモヤの背は震え、急激に足の回転は鈍りはじめていった。

「……トモヤ! お前、これでいいのかよ! ……俺たちは掃除し、廊下をピカピカに磨き上げる、……それが、勝ち負けより何より、大事なことなんじゃねえのかよ!」
「……!」

トモヤの速度が落ちたことで優位は失われ、差は見る見るうちに縮まっていく。
生徒たちが驚くなか、二人は同時にゴールし、清掃レースは開始以来初となる同着で幕を閉じた。

後に、観客の一人は言う。「飛ばし過ぎて、トモヤはスタミナが尽きたんだ」
それはけして、正確ではない。
トモヤの足を止めたのはプライドと良心、そして――廊下を綺麗にしたい、そのライバルが再認識させてくれた、掃除への熱い思いだったのである。

――こう締めれば、なんか良い話っぽくない?


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