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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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スラップスティック・サルベージ

18/06/24 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:422

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 男は機嫌を損ねていた。
 四年に一度のお祭りサッカーに備えて夜食に購入したカップ焼きそば、塩を買うつもりがうっかりソースを買ってしまったことに開始のホイッスルと同タイミングで気づいてしまったからだ。
「ちっきしょう」
 男は不機嫌を湯切りの間際にこぼす。「ベッコン」と、シンクの先をとって言葉にしてやったのだ。
「いっひっひ」
 男は意地悪く笑ってトポポポ、お湯を切った。しかし。
「れれ?」
 さぞかし悔しがりながらの「ベッコン」が聞かれて胸がすくだろうと思っていたのに、男は怪訝にシンクを覗き込む。マメに手入れをしていたせいで間抜け面が二個で困る。と、
「ベッ」
 時間差の音圧に男はのけぞってしまった。このままだとコケて尻もちをつくな、意識が介添えしてくれるも、動き始めた肉体に思いは弱く実体がない。
「うわっと」
 ついた尻もちが自動家庭掃除機のターンに乗って、男はキッチンからダイニングへ。足をズタズタ床を這いずって、シンクから受けた赤面に八つ当たりで掃除機を押し潰した。
「壊れる前にどいてやるんだからな」
 恩着せがましい一言を軽さ味方につけてダンサブルな掃除機に吐き捨てて、男は立ち上がる。
「よっこいせ、さ、サッカーサッカー。勝ち点獲れよー」
 と、自分を鼓舞して立ち上がろうとした、が、飼い犬のブルドッグ、リッキーに腰を咥えられてまた尻もちをつく。
「リッキーの奴、俺のいないとこでルンバとルンルンしてんのかな? 仲間をいじめるなって? 悪かったよ」
 ダイニングで転がった男の視線に反対向きのカレンダーが見える。逆さ文字を解読する今日の書き込み。
「あ、流星群の日だった」
 男は絶叫するサッカー実況の声を捨てて、視界の閃きを求めに玄関を出た。屋上が解放になってるって、エレベーターに貼り紙があったから。しかし、玄関を出て、男は見慣れたスケートボードを視認する。
「ああ、黒田君のだ。忘れてったんだっけ」
 男がアルバイトで家庭教師をしているマンション向かいの黒田君、中学三年生。先生にスケボー教えてやるって遊びに来た。男は面倒くささに映画評論をソラで暗唱し、結果二人でDVDを見てしまい、黒田君はスケボーをすっかり忘れていってしまった。
「まだ九時、いいだろ。届けてやろう」
 エレベーターが下降する。男はここでうっすらとソース焼きそばを思いだしたが、それよりも、シンクの「ベッコン」がディレイしたことの不思議を反芻して消化不良にエレベーターの揺れを足されて酔っていた。
 マンションを出る。自転車を立ち漕ぎするミニスカートの女が緩い坂道を駆け上っていく。見とれて棒立ちになった瞬間、何処かの窓から日本先制ゴールの嬌声がはじけて、男はうっかりまた尻もちをつきかけた、ところになぜか左手からスケボーが落下して、男は緩い下り坂をゴロゴロ醜い速度で降りていく。
「カッコワリ」男は呟いて、立ち上がり、今度は颯爽とスケボーに乗ってやる。
「どうだ、これでも中学時代は馴らしたんだぜ」と、言ったそばを一台の軽トラックが通りかかり、太い腕放りだした親父さんが声をかけてくる。
「よーう、お兄ちゃん、バックトゥーザフューチャーごっこなら荷台貸してやるぜ」
 男は荷台に掴まる。運転手が強面で逆らえなかった。
「駅まででいいな」
 速度を上げて車道を走るスケボーに命をカタカタ震わせて、男は回想した。
「塩焼きそば、シンク、ルンバ、リッキー、カレンダーの逆文字、流星群、黒田君のスケボー、バックトゥーザフューチャーごっこ。これは、もしかして」
 男は気が付いた。男は閉じ込められていたのだ。気が付いたが、もう、遅い。「あばよ!!」駅前の踏み切り、カンカンと鳴る、急カーブでスピードと一緒にちぎられたら、遮断機を突き破って、男は……。「塩焼きそば、買えばよかったな」諦めて突っ込んでくる電車を見上げたら、「ッコン」と、耳にシンクの続きが聞こえた。男は目を閉じた。
「ハイ」
「え」
 死んだと、覚悟したのに。
「どうも、私、スラップスティック・マーダーズの対抗組織、スラップスティック・サルベージの者です」
 時間が制止していた。
 制止した時間に、女が一人。修学旅行で恋したバスガイドさんにそっくりな。電車に白い手袋の右手を添えて、笑ってた。
「もう、シンクをからかっちゃダメですよ。請求書はポッケの中、じゃぁね」
「あ、え?」
 男が事態を飲み込む前に、女の左手が男を線路からはじきだす。カンカンカンカン。電車が過ぎていく。男は踏切の外でスケボーを抱えていた。
 男は帰る。シンクに謝って伸びきったソース焼きそばを喰った。
 後日談。
 男は女に会えるだろうと支払いを延滞した。
 しかし、再び止まった時間の中で、男が出会ったのは強面のおじさんだった、そんな話。 


   

 


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