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長玉さん

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マッスル・ド・エリカの死闘──深い敬愛と友情と筋肉と──

18/06/23 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 長玉 閲覧数:213

時空モノガタリからの選評

”バカバカしい”対戦が大真面目に大仰な表現で語られてしまうところが振り切れていて面白いと思います。キャラクター達の個性の”濃さ”と、次々に繰り出す技たちは、劇画的に凝集された熱量を帯びていますね。さらに本人たちは無言でありながら、自らの意志を持つ筋肉たちによる対話がなされるあたり、武士道や西部劇にも通じるような様式美を感じてしまいます。何事も行き過ぎるとコメディ化してしまうということなのかもしれません。(ただ誤字が多いのは気になりました)


時空モノガタリK

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「コメディコメディコメディコメディコメディ!」
先攻は筋肉芸人マキシ・マム。
筋肉最高神マッチヨーに認められた、世界最高の筋肉戦士である。
「コメディコメディコメディ!」
息が続くかぎりマムは叫び続け、そして変顔をくり出し相手選手の笑いをさそう。
「コメディコメディコメディ!」
相手選手のマッスル・ド・エリカがおもわず口元をゆがめる。
攻撃側は「コメディ!」と叫びながら相手選手を笑わせなければならぬ新競技・コメディにおいては、言葉を使わぬ不条理な笑いのみが、戦場を支配する絶対的な“征服者”なのだ。
屈強な笑いの戦士たるエリカの首を刈らんと、マムの表情筋の躍動は激しさを増す。
歯を食いしばり“征服者”の鎌に屈さんと耐えるエリカを、心配そうに見つめる瞳があった。

上腕二頭筋のジョニーである。
ジョニーの力こぶはスイカ一玉よりも大きく、くり出す拳の風圧は雲をなぎ払い大気圏を突き抜け、星をも砕くほどだった。
そんなジョニーの片膝をつかせたのがマッスル・ド・エリカである。
エリカは強く、美しかった。上腕二頭筋が邪魔でトイレでおしりを吹けないジョニーにとって、エリカの無駄のない肉体は衝撃そのものだった。
真に強き者は、美しい。
ジョニーはエリカに魅せられ、ここまで着いてきた。
彼できることは、もう信じることだけだ。

「コメディコメディコメディコメディ!」
コメディ開幕から10分が経過して、マムが突如、姿を消した。
「コメディ!」
いや、声だけは聞こえている。
すると、マムの変顔が突如エリカの目の前に現れた。
「ッ〜〜!!」
不意打ちの不条理な笑いに、エリカは崩れかける。
人は予測できぬものに弱い。それは人類屈指の筋肉の化身たるエリカとて例外ではないのだ。

「出たぞ、マキシ・マムの亜空間変顔!」
「マムの奥の手を引き出すとは、さすがはエリカだ!」
そう。人間界の頂点たるマムは、その筋力で時空をゆがめ、この世ではないどこかに空間を生み、あやつることができるのだ。
変顔した生首が、亜空間を介して相手の目の前に突如出現する。
この必殺技をもって、マムは難攻不落の女王として君臨しているのだ。

「コメディコメディコメディコメディ!」
変顔をした生首は、瞬間移動を繰り返して次々と迫りくる。
まさに不条理な笑いの極致であった。会場にいる軟弱な人間はこの光景を見ただけで、そのあまりの笑撃に腹筋が断裂し、背骨は粉々に砕け、全身が地上から消滅してしまう。

そうして会場の2/3の人間が消滅してしまった。
かつて強者であったジョニーも、気を抜けば腹筋が断裂しそうだった。
直近でそれを食らったエリカに、もはや3秒として笑いをこらえることは不可能であろう。
やはり頂点には届かぬか、そうジョニーが呟いた時だった。


ふと、エリカが笑った。
声をあげて笑ったのではない。それは勝利を確信した、静かな余裕のある笑みだった。
エリカの広背筋が語っている。「我に策あり」と。
また、エリカの右の外腹斜筋の上から二番目も語っている。「我に策あり」と。
ついでにエリカの棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋からなる回旋筋腱板も語っている。「我に策あり」と。
言葉を交わさなくてもわかる。エリカの全身の筋肉という筋肉が、ほかのなによりも雄弁に、ジョニーに語りかけていた。

「コメディコメディコメディコメディ!!」
ふたたびマムの生首が亜空間から現れた。
エリカの策はなんだ。どうやってマムの笑撃に耐えるのだ。
ジョニーが見守る中、エリカは驚きの行動に出た。

「コメディコメディコメ‥‥フグッ!」
マムの声が途切れた。
変顔をしているマムに、エリカも変顔をして向き合っている。
「フ‥‥ブフッ!!」
地響きのような笑い声が天地にとどろいた。
マムの「コメディ」のかけ声は、それで途切れてしまった。
地に伏せたマムを、新たな王者が見下ろしていた。


皮肉なものだ。コメディの王者であるがゆえに、マムはもう何十年も笑っていなかった。
笑うことは即ち敗北を意味する。王者に敗北は許されない。
笑いは、闘いの日々に明け暮れる自分にとっての癒しだった。
きっと心の底では笑いを欲していたのだろう。エリカを笑わせることに精一杯で無防備だったマムの精神は、エリカの変顔に、素直に笑わされたのだ。

「私は、笑わぬことこそが王者の証だと信じていた」
マムの左の外腹斜筋の下から二番目が、エリカに語りかけた。
「だがお前は違った。自分が笑うことを否定せず、それより前に私を笑わせればいいと考えた」
するとエリカの大臀筋が応じた。
「しかし反則すれすれの卑怯な策だ」
「いいや、笑いに反則などない。お前が王者にふさわしい」
二人の強者の間に、言葉はなかった。
ただ深い敬愛と友情と筋肉だけが、二人の強者をつないでいた。


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