1. トップページ
  2. 奥手なみちこの遠まわしな奮闘

秋 ひのこさん

歯について考える時、右と左がよくわからなくなります。右奥だっけ、左奥だっけ。虫歯が絶対にあると思われるあの場所を伝えるべく「ええと、右です。そして上な気がします」と言ったら先生が「うん、上は上でも左ですよね」とか言う瞬間が恥ずかしいので、虫歯は放置しているような人間です。 ……ということも言ってられず、ついに虫歯を治療しましたところ、ちっとも奥歯の不快感が消えてくれないので、「先生、虫歯を見落としていませんか。虫歯がまだ残っていると思われます」と大変失礼なことを尋ねてみましたら、「それ、本当に歯が痛いのですか。歯茎は少し腫れていますが、本当に歯ですか」と逆に聞かれ、やっぱり恥ずかしい思いをしました。こんにちは。 

性別 女性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

奥手なみちこの遠まわしな奮闘

18/06/22 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 秋 ひのこ 閲覧数:315

この作品を評価する

 こんにちは、みちこです。
 最近の悩みは、44歳になるオットが臭いだしたことです。
 これは家庭の一大事、ひいては社会(オットの生活範囲内)の一大事でありますので、妻である私がオットに真実を告げなければなりません。

 専業主婦の私に、夫は毎日家に帰ってくるたびに「今日は何したの」と聞きます。
 結婚生活10年目。
 これが何より嫌いな質問だということを未だに言いだせない私に、「あなた、ニオイますよ」なんていうことが果たして言えるでしょうか。
 今日は何したのって。しがない田舎の主婦が毎日何をしていると思っているのでしょう。まあ、「働け」と遠まわし言っているのかもしれませんが、遠過ぎて伝わっていないふりをしています。

 それはともかく。
「今日は何したの」
「今日【も】枕カバーを洗濯したの。『丸洗いできる枕』がほしいなと思ってネットを見てみたり、せめて枕カバーの予備を増やそうかと考えたりしたのよ」
「買い替えるなら僕は『快眠を約束する枕』がほしいですね」

 遠まわしの話術は難しいですね。

 オットはなんだかんだでプライドが高い人です。心も繊細です。
 繊細といえば、小学校の時に後藤さんというクラスメイトがいて、後藤さんは優しさと涙でできている、と形容される女子だったのですが、彼女は動物を飼うと死んだ時に絶対に悲しすぎて耐えられない、という理由から学校飼育のうさぎを「ネズミのでかいの」と呼び(本名はラビちゃん)、鶏を「卵産むやつ」(本名家康。雄。卵産みません)と呼ぶと聞いた時、あえて距離をとることで自分の心を守ろうとしている、なんて繊細な子なのだろうと、彼女の複雑な心情を誰よりも深読みして感銘を受けたものです。
 とまあ、そういう方向ではないにせよ、オットは繊細です。

 さて、翌日。
「今日は何したの」
「スーパーさかえの『5のつく日セール』でしたので、こんなものを買ってみました」
『息爽やか! 口臭予防歯磨き』
『加齢臭すっきり! ボディソープ・ハーブの香り』
『頭皮の臭いを撃退! 男のシャンプー』
 オットは少し眉をひそめました。ちょっと直球過ぎたかもしれません。しかしそこまで関心を寄せるでもなく、
「おや、君の分は安くなかったの?」
 と聞きました。自分の分ばかり買ってもらって申し訳ない、という体で。オットは特売が大好きです。
 ちなみに、『5のつく日セール』は臭い撃退グッズをまとめ買いしたことの言い訳で、買ってきたアイテムはすべて通常価格ということは、黙っておきます。

 またある日。
「今日は何したの」
(「旦那 加齢臭 気にしない ありえない」「夫に自分の臭いを嗅がせる方法」などを検索して1日が過ぎてしまいました)
 とは言えません。
「オバマさん(愛猫)とかくれんぼからの鬼ごっこなどをして過ごしました」
「楽しそうですね」
 オットは私が呑気に社会に背を向けて過ごした日は何故だかことのほか嬉しそうです。
 埒があかないので、人生の師匠、母にラインで尋ねてみることにしました。

私:父は臭いましたか
母:何ですか、薮からスティックに
私:加齢臭の話です
母:小野。よくぞヒアリング。臭うも何も。私がデボース(離婚)したのはあの方のボデー臭が原因といっても定かではないのですよ
(小野はOh No、オウノー、の打ち間違いと推測されます)
 それはさておき。
 寝耳にウォーター、もとい、水です。
私:離婚の原因は性格の不一致による双方合意に基づく円満離婚だと言っていたではありませんか
母:夫婦はね、色カラーあるのよ
 
 色カラー。
 おっと、置いていかれそうになりました。「色々」ですね。
 深いようでいて、雑なまとめです。こんな母に対し、父は父で思うところがあったに違いありません。
 そんな親の離別の真実に衝撃を受けた夜、お風呂上がりのオットはハーブの香りに何か別の臭いが混じって大変なことに。

「今日は何したの」
「家族の隠された真実を知りました」
「ほう」
「両親の離婚の原因は、父の【体臭】だったのです」
「なんと。性格の不一致による双方合意に基づく円満離婚ではなかったのですか」
 私は家族の恥をも利用することに決めました。今日こそ、巧みな話術で誘導してみせます。
「臭いは婚姻をもおびやかすということです。【私も】気をつけねばなりません。【私も】もっと気を使います」
「君は臭いませんよ」
 きた。
 さあ、そこにつながるのが! 僕はどうです……、
「オバマさんも臭いませんね」
 それも言いつつ、さあ! 僕はどうで……、
「じゃあおやすみなさい」
 
 オットは他人です。
 他人を変えるのは難しおます。
 明日は『丸洗いできる枕』を注文しつつ、思い切ってオットに手紙でも書いてみようかと思います。俳句で。 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン

ピックアップ作品