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君形チトモさん

「きみがた チトモ」と読みます。 創作と着物と動画制作とCoCが趣味。 失恋する女の子と、王子様に手を差し伸べてもらえない女の子と、ヤンデレが好きです。 異類婚姻譚も好きです。 嫉妬とか劣等感のからんだ、ドロドロした恋愛話も好きです。 シェイクスピアで一番好きな戯曲は『オセロー』で、一番好きな登場人物は「マクベス夫人」。

性別 女性
将来の夢 ・自分の小説を本屋で平積みしてもらうこと ・媒体関係なく、自分の書いた物語をたくさんの人に読んでもらうこと
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春告げの捨て身

18/06/20 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 君形チトモ 閲覧数:233

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「君は今日一日、この家から出られない」
「はい?」
 残業から帰宅してうっかりテーブルで寝て、ハッと起きたのがさっき。髪をオリーブグリーンに染めた地味な服の美青年が、私の部屋と外を繋ぐドアの前に立ちふさがっていた。知らない人だ。家にあげた覚えもない。
「……あなた誰です、警察呼びますよ」
 手探りでスマホと武器になりそうなものをさがす。あれ、テーブルに置いたはずのスマホがない。
「誰でもいいじゃないか」
「良くないです」
「ああ、名前か。じゃあ『春』と呼んで」
 そうじゃねえよ。そう言いたかったが、密室に見知らぬ男、スマホは行方不明、武器もない。冷静にいかねば。
「ところでスマホ知りません?」
「すまほ……これだっけ」
 面白そうだからいじったけど使い方がわからなかった、と手に握った私のスマホを見せる。近寄ってこないということは、取りに来いということか。嫌だ。というか勝手にいじるな。
 うん、まずは寝るまでのことを思い出そう。今日も職場で上司にセクハラパワハラを受け、心身共に疲れて帰ると、家の前で、色の地味な弱ったメジロが倒れているのを見つけた。少し私と重なって見えたから切なくなって、然るべき機関や病院に連絡したかったけど時間的に無理で、とりあえずスマホで調べつつ看病。明日病院連れていけるかな、仕事だもんな、けどこのままじゃメジロ死んじゃうかも、でも仕事行かなきゃ、とぐるぐる考えていたら、ふと、最近休日も平日もほとんど職場しか行ってなくて、趣味のカフェ巡りなんてもう何ヶ月もしてないことに気づいた。涙がこみ上げてきて泣いていたら、そのまま寝ていた。そして今に至る。やはりこの男を家に入れた覚えはない。
「どうかした? もしかして暇? 歌なら歌えるけど聴く? 結構上手いよ」
「いいです」
 歌にやけに自信ありげ。確かに声は綺麗な方だと思うけど。そんなことを考えているうち、男がやたら荒い呼吸をしていることに気づく。あれ、と思って見ていると、何とゆっくりと男が倒れた。手のギリギリ届かない範囲まで恐る恐る近寄る。男の顔色が、めちゃくちゃ悪くなってる。
「な、何? 具合、悪いんですか?」
「だ、大丈夫、気にしないで……君はここにいていいから……」
「いていいも何も、ここ私の家だけど!? ちょっと、ねえ大丈夫!?」
 思わずうろたえる。いくら不法侵入兼監禁の不審者といえども、目の前で死なれたら寝覚めが悪い。
「いい、いいんだ、助けてもらえて、嬉しかったから、それだけで……十分だよ」
 私がこの男を助けた? いったい、いつだろう。
「フラフラで……もう飛べなくて、1羽でこのまま、寂しく死ぬんだと思った時、君が……拾い上げて、くれて。あたたかく、て、やわらかくて」
「……」
「まどろんでいたら、君が……泣き出して。仕事に行きたくない、でも行かなきゃと……泣きながら、言っていたから。おれが行かせなければ、君は行かなくて、済むと、思って……」
「……あなたまさか、家の前で倒れてた……」
「うん」
 男が頷く。この男が、私の拾ったメジロ?
「そんなに辛いなら、行かないで。仕事より、君の命と、心の方が大事だよ。少なくとも、おれは……そう思う。助けて、くれて……ありがとう」
「……何満ち足りた顔してるの、そもそも何で鳥が人間になるの、諦めないでよ! 病院行くから! メジロに戻ってよ連れてくから! それとももしかして人間の病院!?」
「ちが……う、メジロ……」
「血!? 怪我してたの!?」
「ちが……」
 メジロが、ゆっくり目を閉じていく。私は愕然として、思わず泣きながら名を呼ぶ。
「嘘でしょ、ねえ!! メジローー!!」

 ハッと目を覚ました。辺りを確認する。私の部屋、テーブル、そして保護したメジロを入れた箱。慌てて中を見る。まぶたを閉じたメジロに、そっと触れる。あたたかい。わずかだけど喉のあたりが動いている。まだ、生きている。
「よかった……」
 時計を確認する。そろそろ家を出る時間。でも、今日は休むことにしよう。後で絶対何か言われるけど、命の方が大事だから。
 動物病院でメジロを診せれば、峠は越えたとのこと。私の看病のおかげだと獣医さんに褒められた。
「よかった……。ひとまず大丈夫なんですね」
「はい、後は様子を見ていきましょう」
 このメジロを看病するなら、もう少し休みをもらわなければ。有休……いやもういっそ、辞めてしまってもいいかも。今まで、踏ん切りがつかなかったけど。
「あ、そうだ。この鳥、メジロじゃなくて鶯ですよ」
「え」
「間違える方結構いますから、仕方ないですけどね」
 獣医さんに言われて、用意してもらった餌を食べている、メジロ改め鶯を見やる。視線に気づいたのか顔をあげ、だから違うと言っただろうと言いたげに首を傾げて、チャッチャと鳴いた。


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