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hayakawaさん

大学院生、塾講師、家庭教師。作家になれたらいいなと思いつつ大学院を卒業して、研究者を目指しています。織田作之助青春賞1次選考、文芸思潮「現代詩賞」2次選考に通過した経験があります。

性別 男性
将来の夢 作家
座右の銘 天才とは、彼らの世紀を照らして光輝くべく運命づけられた流星である。(ナポレオン)

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ヴァンパイア

18/06/05 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 hayakawa 閲覧数:279

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 僕の側にいるのは一人の恋人だ。彼女は吸血鬼だった。人の血を吸う事でしか生きることができない。そして僕は彼女の秘密を抱えながらそっと生きている。
「ねえ」
 彼女の名前は玲奈と言った。見た目は至って普通の人間。しかし、彼女の八重歯は人の血を吸うことができる。
「ねえ、聞いてる?」
 彼女は僕に問いかける。
「聞いてるよ」
 僕はその美しさに魅了されていた。なぜだかわからないけれど、人を惹きつける魅力があった。
 そしてその魅力の奥底に何があるのかわからない。僕はいつも彼女がいったいどんな存在なのか考え続けた。もしかしたら僕のことを理解してくれるんじゃないか。そんな淡い期待もした。
「なんだか疲れたなあ。世の中全てが馬鹿らしく見える。もう飽きちゃったのね。この世界全てに。私に唯一残されているのは君の血を吸うことだけ」
「僕の側にいるのは僕の血を吸うためだろ?」
「そう君の血は透き通っているから。それに君といると疲れない。暴力を振るわれることもない。吸血鬼の私を受け入れてくれた」
「僕は時々思うんだよ。もしかしたら君みたいな人間の姿をした吸血鬼が僕の気持ちを唯一理解してくれるんじゃないかって」
「君の悩みなんか知らないわよ。君は寂しいから私の側にいるんでしょ?」
「さぁ?」
 僕はずばりと本音を言い当てられたことに衝撃を受けた。なんだか彼女には僕の心にわずかにくすぶる欲求や意図が全て見えるようだった。
「私は、人間じゃないのよ。正直人間が何をしたいのか、何が苦しいのか、凄くわかるんだけれど、くだらないものに思えてしまうの」
「君はその才能を生かしてこの世界で活躍すればいい」
「嫌よ。目立ったら面倒なことになるわ。私は君とね、こうやって穏やかに生きていたいの。私は仕事場や外ではコメディアンよ。仕事や会話をそれなりに私らしくコメディみたいに楽しんでいるの」
 彼女は吸血鬼でありながら僕よりずっと優れた仕事をしていた。彼女は国家公務員として警視庁で働いていたのだ。僕は彼女とは違って、コンビニでアルバイトをしていた。
「時々ね、犯罪者の吸血鬼と出会うのよ。正直、彼らは上手く人間に適応できなかっただけなのよ」
「僕には君の言おうとしていることがわからない」
「地味な存在よ。吸血鬼なんて。口が裂けたって他人には言えないもの。だからこうやって恋人を作ってそっと打ち明けるの」
「普通の人間はどうするの?」
「大抵、血を吸おうとすると恐怖して逃げていくわ」
「僕だってこの世に吸血鬼がいるなんて信じられなかった。君に初めて血を吸われたときは怖かったよ。それに痛かった。でも今はなんだか快感になったけど」
「馬鹿みたいでしょ。私はちゃんといろいろ考えてこうやって生きているのよ」
「ねえ、ところでさ、僕達二人で結婚して子供を作ろうよ。僕は、本当に君のことを愛しているんだ」
 僕は吸血鬼でありながらも、彼女のことをどうしても手に入れたかった。
「嫌よ」
 彼女はそう言って笑った。
「コメディみたいじゃない?」
「なんだよ。コメディって?」
「私にはふざけているようにしか聞こえないの」
「なんだよ。それ?」
「どうでもいいわ。ねえ、お酒でも飲みましょ」
 僕らは二人でお酒を飲んだ。カリフォルニア産の赤ワインだった。
「まったく味がしないの。ねえ、わかる? 何を食べても飲んでも感覚がないのよ。人間の血液以外は」
「それは冗談?」
「残念。本音よ」
「君はいつもそうやって嘘ばかりつくね」と僕は言った。
「私は何が本音か嘘かもよくわからないの。でもね、これだけは覚えておいて。私は君のことを支えてあげたいの。なぜなら君が賢明に私のことを支えてくれるから」
「それは冗談?」
 僕はふざけてそう言った。
「冗談よ。酔っちゃったみたい」
「それが君のコメディだろ?」
「嘘よ」
「この嘘つき女が」
「ねえ、そんなこと言わないで」
「それもコメディだろ?」
 彼女はけらけらと笑った。その笑い方は特徴的だ。しばらくの間、僕らはお互いのワイングラスを眺めていた。
「僕らは同じ人間だよ」
 僕がそう言うと彼女は涙を流した。僕にはそれが彼女のコメディだと気づいていた。そして今まで見上げていた彼女が急にか弱く見えた。
「ねえ」と僕は問いかける。
「疲れちゃった」
「嘘つき」
「なんでわかるのよ?」
「君がそうやっていつまでもふざけているからさ」
「わかったわよ。私は私なりに頑張って生きるわ」
「ふーん」
「ねえ、今日も血を吸わせてね」
 彼女はそう言ってけらけら笑った。


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