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本宮晃樹さん

ふつうにサラリーマンをしております。 春夏秋冬、いつでも登山のナイスガイ。 よろしくお願いします。

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笑いを取り戻せ!

18/06/02 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:314

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「アノ、スイマセン……」ミネソタあたりからやってきたであろう壮年夫婦。彼らは期待に目を輝かせている。「わたしたち、聞きたいことアリマス」
 肩で風を切って歩く若者は内心うんざりしていたが、これも大阪のためだと涙を呑む。大阪生まれ大阪育ち、そして当面のところ大阪から出ていくつもりはない。彼は大阪を誰よりも愛し、万が一大阪が滅びるなんてことがあるのなら、喜んでそれに付き合うつもりだった。
「なんやねん、外人」
「最近、ドウデッカ?」
 青年は悪態を吐くのをかろうじてこらえた。「ぼちぼちでんな」
 それを聞いた夫婦はもう大喜びだ。人目もはばからずにげらげら笑い、目の端に涙まで浮かべている始末。
「もうひとつ、聞きたいことアリマス」
「なんやねん、外人。なんでも聞いてええで」
「好きな食べもの、教えてクダサイ」
「決まっとるやろ、たこ焼きや!」
 またぞろ爆笑の嵐。だんなのほうは笑いすぎて腹が痛いらしく、片膝を突いて息をあえがせている。ようよう発作が治まったのを見計らい、おもむろに水筒を取り出した。水筒には英語で「gasoline」と記載されたラベルが貼ってあり、わざとらしく青年の前にちらつかせる。「喉渇きマシタ。水ノミマス」
「っておーい! それガソリンやんけ」大阪人はもうやけっぱちだった。「死んでまうやん。喉潤わへんやん」
 夫婦は歩道に這いつくばって文字通り、死ぬほど笑い転げた。
 年若い大阪人は憎々しげに吐き捨てた。「もうええわ」

     *     *     *

大阪市民のみなさまへ 観光客誘致にご協力ください
 今般日本への観光客来日数が低迷しています。格安航空サービスの蔓延する当節、外国人観光客は事実上世界中を旅行先として選択できるといっても過言ではないでしょう。
 もはや観光資源だけに頼り切った受動的なやりかたは通用しないのです。これからは観光客自身が当地に――すなわちわが大阪に溶け込み、その雰囲気を存分に味わってもらうという参加型観光旅行を打ち出していかねばならない。大阪市はそのように考えます。
 そこでみなさまにお願いがあります。当市は大阪市を海外に紹介するページを大々的に作成する予定です。それには大阪人が遺伝子レベルでのコメディアンであり、かつ根っからの商売人、そしてもちろんたこ焼きをこよなく愛する誇り高き民族であるとします。
 観光客たちはおもしろがって紹介ページ通りに定型的な質問をしてくるでしょう。大阪市民各位に求めることはただひとつ。いつもより少しだけ大げさに相手をしてやってほしい。それだけです。
 いまこそわが愛すべき大阪の文化を世界に知らしめるときなのです!

     *     *     *

「あの、聞きたいことアリマス」
 今度はミネアポリス出身者らしき夫婦だった。青年はついさっきミネソタ州の阿呆どものために一仕事終えたばかりだったので、危うく堪忍袋を破裂させるところだった。が、超人的な忍耐力を発揮した。「なんやねん、外人」
「わたしたち、サブウェイいきたいデス」
「ゴーストレート。難波駅があんねんで」
「ジーザス、わたしたちマップ、アリマセン」
 一瞬なんのネタかわからなかったが、すぐに思い出した。外国人に対する公式の通達では梅田駅の地下はダンジョンであり、地図のない者は立ち入りを禁ずるとされているのだ。
「おまはんら、運がええで。俺が地図持っとるさかい」青年は手提げバッグから凝りに凝ったダンジョンマップを取り出した。それには頭蓋骨にぶっちがいの骨が二本組まれたおっかないマーク、宝箱、宿屋の場所、出現するモンスター、その他いろいろがところ狭しとポイントされており、右上に劇画タッチの外人が「you are adventurer !」と叫んでいるおまけつき。
「ありがとゴザイマス」だんなはいまにも吹き出しそうだ。「いくらになりマスか?」
「五百万円や」
 またぞろうんざりするような爆笑。彼はいよいよ我慢の限界に達した。大阪人は確かに大げさなもの言いをするし、すぐにボケとツッコミの構図を作りたがりもする。だがそれは洗練された文化であって、このような低レベルなネタの応酬では断じてない!
「貸せや」乱暴に地図をひったくると、力いっぱい引き裂いた。「やめや、やめ。俺はもう金輪際、大阪人の魂をおどれら外人に売らん。いまそう決めた」
「わたしたち、ウメダ・ダンジョンで迷ってシマイマス」
「茶番はもうやらんで。堪忍な、外人」
「ちゃう」彼は決然とつぶやく。「ホンマの大阪文化はこないなもんとちがう。決めたで。大阪人のおもろさを世界に知らしめたる」

 数年後、ピン芸人としてアメリカ合衆国の片田舎でネタを披露している一人の日本人がいた。
 彼はいま、本当の意味で文化の伝承者になったのだ。


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