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路地裏さん

カクヨムにて短編を書いています。 少し不器用で、時に残酷で、愛しい人達の物語を綴っていきたいです。

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ソフィア

18/05/31 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 路地裏 閲覧数:435

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眠そうに開かれたサファイアブルーの瞳は今なおその美しさを維持している。小さな手がこちらへ伸びてきて、不慣れな様子で私の体を撫でる。酷く下手くそな撫で方だ。こんな風に撫でられるのは私の人生においてこれが2度目である。

少女は私と同じサファイアブルーの瞳をしていた。少し癖っ毛だが美しいブロンドヘアを持つその少女の名前はソフィアと言う。フランス人の父と日本人の母の元に生まれた美しい娘だ。少女が生まれ育ったフランスの故郷を離れ、日本へ移住する事になったのは両親の離婚が原因だった。
とある田舎の高校に通う事になったソフィアは、良くも悪くも周囲から浮いた存在だった。少女の容姿に魅了され近づく者も多く居たが、男女問わず素っ気ない態度を取るソフィアにやがて誰も近寄らなくなった。
何かあった時の為にと幼い頃から母親に教育されてきた日本語は、友人を作るために生かされることはなかった。

「昔はこんなじゃなかったのよ」
チャームポイントのブロンドヘアをなびかせながら、少女は私に話す。
「私を飾り物にして隣に置きたいって顔に書いてあるんだもの、揃いも揃って」
少女とこの川原で会うようになってから、1か月程。
「この瞳の色も髪の毛も全部失ってもいいから、故郷に帰りたい」
少女の口から前向きな話を聞く事は無い。
「帰りたいだけなのに」
少女は返事のない私に本音を吐露する。

少女は故郷を離れてからすっかり心を閉ざしてしまった。外へ出ればその見た目のせいで好奇の目を向けられ、家に帰れば祖母と母が喧嘩する姿を蚊帳の外から眺めるだけの毎日。少女は遠く離れた地に居る父を思い、毎晩枕を濡らした。日に日に弱々しくなっていくソフィア。少女が壊れるのも時間の問題だと思った。

その日は風が少し冷たい曇りの日だった。
私は座り心地の良い場所を見つけ、いつもの川原で少女を待っていた。
数分後、制服に身を包んだブロンドの少女がキョロキョロと私を探しながらこちらへ向かってきた。私を見つけると、1メートル程離れて腰を下ろす。これが私達の距離なのだ。

さて今日も愚痴を聞いてやろうじゃないかと構えていたものだから、その日のソフィアの表情と声のトーンには心底驚かされた。

「ねぇ、聞いて。少しだけ。少しだけ心を動かされる映画に出会ったの!」

少しという割に大きな声である。

「主人公は日本人の男の子で、海外に少しの間留学する話なんだけど。彼は容姿の事で散々からかわれるの。でも彼は見た目だけで笑いが取れる自分の才能を見出して、数年後海外で大人気のコメディアンになるの」

今日も少女のブロンドは美しい。

「面白いシーンも沢山あって、久々にお腹を抱えて笑ったわ」

サファイアブルーの瞳も生き生きしている。

「あまり有名な映画じゃないんだけど、何だか凄く励まされたわ」

少女は興奮気味に映画の内容を述べ、幼い子供のような笑顔を私に見せた。ソフィアの笑顔を見たのはそれが初めてだった。

そんな映画を一本見たくらいで大袈裟な。とは思わなかった。少女の瞳は今までで一番輝いていたから。

「私も変わりたい」
ソフィアの言葉に私は耳をピンと立てた。そして少女の元へ近づき、その体に寄り添った。私は初めて少女の体温を感じた。とても温かかった。

少女は初めて見せる私の行動に少し驚いた様子ではあったが、「いつもありがとう」と言った。

そして不慣れな手つきで、初めて私の体を撫でた。それはもう酷い撫で方で。

それでも何故か心地が良かった。
初めて私に温もりをくれた少女、ソフィア。

その後ソフィアの学校生活がどうだったかはあまり記憶にない。私もそれなりに長く生きてしまったから。映画の中のコメディアンに魅了された少女に私が気を許してしまったという、ただそれだけの話だ。

眠そうに開かれたサファイアブルーの瞳は今なおその美しさを維持している。小さな手がこちらへ伸びてきて、不慣れな様子で私の体を撫でる。酷く下手くそな撫で方だ。こんな風に撫でられるのは私の人生においてこれが2度目である。
私はあまりの眠さにもう一度瞼を閉じようとするが、構って欲しいブロンドの幼子はそれを許さない。

「ニャア」
私はため息混じりに鳴いた。

ドアの向こうから迫ってくる足音はこの子の母親のものだ。私に触れる娘の姿を見て、サファイアブルーの瞳を大きく見開くことだろう。それから少し癖っ毛で美しいブロンドを揺らして、飛び跳ねて喜ぶに違いない。

私が心を許した人間にしか体を触らせない事を、ソフィアが一番よく理解しているから。

賑やか過ぎるこの生活もなかなか悪くない。

私のサファイアブルーを閉じる日は、まだまだ先になりそうだ。


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