1. トップページ
  2. わたしを見て笑って。

井川林檎さん

ネット小説を書いております。 PR画像はコハ様の書です。

性別 女性
将来の夢 小説をずっと書き続けていたい。
座右の銘 人は人、自分は自分。

投稿済みの作品

1

わたしを見て笑って。

18/05/28 コンテスト(テーマ):第157回 時空モノガタリ文学賞 【 コメディ 】 コメント:0件 井川林檎 閲覧数:295

この作品を評価する

 その少女は美貌で、頭脳明晰で、特殊な能力を授かっていた。病人に手をかざし、あっという間に治癒することができた。どこにいっても少女は歓迎された。

 ある時、少女は不治の病に侵された。この世のものとも思えぬ奇病だった。
 血は吐くわ目は見えなくなるわ髪の毛は抜けるわ食事は喉を通らぬわで、少女はやせ衰え、病室で死を待つばかりとなった。
 
 これまで少女が手をかざせば病人はたちまち快癒したものだが、病んだ少女には、その力はなかった。
 癒しを求める人たちが病室まで押しかけたが、失望して帰った。人々はそれまで少女の事をキレイカワイイスゴイスバラシイと誉めそやしていたのに、コロッと掌を返すように、近寄ったら病気がうつるだの見た目が不気味だの、酷い噂を流した。

 少女は孤独な身の上だった。見舞いに来る人もいなかった。
 謎の病なので、もうあとどれくらい命が残っているのやら誰にも分らない有様だった。
 秀麗な美貌の面影は、それでも僅かに残っており、それが余計に見る人を悲しませた。

 医師も看護師も、感染の恐れがあるので少女には必要最低限の関りしかしなかった。
 ある日、少女は病室で奇妙な声を聴いた。
 
 「死ぬ前にひとつだけ願いを叶えて進ぜよう」
 
 それは神様の声だった。
 少女にはすぐに分かった。この神様こそ、少女の運命を設計した本人。孤独な出生、人並み外れた美貌と才能、特殊な能力を与えてくれた、まさに人生のシナリオライターなのだった。

 少女はそれで、切なく思っていたことを口に出した。
 これまで少女に関わった人は皆、幸せになったものだが、病気になってからの少女を見た人は、皆失望し、嘆き、不幸になった。
 わたしを見た人に、明るい気持ちになって欲しいと少女は言った。

 神様は快諾した。運命のシナリオライターたる神は、少女に最期の祝福を施した。

 さて、看護師がやってきた。
 少女の部屋に入ってくる看護師はいつも、仲間の中で弱い立場の看護師だった。少女の部屋は、誰も入りたがらない恐るべき感染部屋なのだ。虐められ看護師はいつも、「行ってきな」と、パシリをさせられる。

 トホホな看護師は、手袋をした手で少女のバイタルを測る。
 やせ衰えて、不気味な斑点が浮き出した腕を取り、顔色を見た。いつもなら、秀麗な面影を残した哀れな様子に、心が真っ暗になるのだが、今日はなんだか違った。

 看護師は、少女の顔を二度見した。
 そして横を向いた。
 目の見えない少女は、看護師の荒い息づかいしか分からない。どうかしましたか、と、少女は言った。
 
 その声を聞いて、看護師は笑いを爆発させた。その不謹慎な程の陽気な笑い声は、病院中に響き渡った。あまりにも楽しそうな笑い声なので、看護師や医師や、歩くことができる患者たちが集まってきて、いつもは寄り付かない少女の部屋の前に来た。

 一方、看護師は腹を抱えて爆笑しており、少女は唖然としていた。
 声だけは前のまま、澄んだ美声だったはずだ。その美声が余計に人の涙を誘ったものだが、今、声を聴いた看護師はペンペンとベッド柵を叩いて笑い転げている。
 
 少女はもう一度発声した。大変にコミカルな音が聞こえた。看護師は笑い転げ、やがて少女自身も楽しくなってきて笑い始めたのだった。

 ぴっぴょろぱっぴょろうんころりー、ぶりゅぶりゅぷりぷりうんころりー。

 看護師は少女の声を聴き顔を見て、涙を流しながら笑った。
 やがて気になって扉を開いた人々は、少女の顔や声や、看護師の陽気な爆笑に、自分たちも楽しくなってきた。
 
 どわあああああ、どわああああ。
 
 少女が振り向き、発生するごとに、スタンディングオベーションが起こる。病院の中は陽気になり、はちきれんばかりの笑い声は町中に響いた。やがて町の人々も病院を訪れ、少女の姿を見て、誰もが心の底から愉快になった。

**
 
 「美しい姿や過去の名誉と引き換えにしても良い。わたしはみんなを笑わせたい」

 あの時、運命の神様に少女が願ったことだ。
 神様は言った。

 「それでは最後にお前を、最高のコメディアンにして進ぜよう」

**

 少女は、拍手と爆笑の渦に包まれて、コミカルな笑いを頬に刻んだ。
 どわああああ、どわあああ。

 ああ、もうすぐ逝くのね。少女には最期の時が分かった。
 天井から迎えの天使たちが迎えに来るのが盲目の目に映った時、少女は祈ったのである。

 願わくは自分が死んでも今しばらく、この町の最後の一人まで幸せな笑いを得ることができるまで、脳天から飛び出す愉快なチンアナゴは健在でありますように。面白い踊りで皆を笑わせてくれますように。

 「ぴーひょろろろ」
 健気なチンアナゴが、コミカルな音と仕草で少女の祈りに応えた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン