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宮下 倖さん

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月凪公園奇譚

18/05/28 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:2件 宮下 倖 閲覧数:493

時空モノガタリからの選評

物言わぬ公園が魅力的に思えてくる作品だと思います。映像的にインパクトがありますが、奇抜なだけでは終わらずに、適度に擬人化された表現を通し、公園の秘められた優しさが伝わってくるのが良いですね。戦場に旅立つ同僚に向けられたかのような「帰還を待つ」という看板の言葉は、住人達の公園への想いを代弁しているかのようです。今回の選考者たちの間で、好みが分かれることなく平均的に評価が高い作品でした。

時空モノガタリK

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「……防犯カメ……映像……犯人の特ちょ…………不審物には充分……てください……」
 ラジオのチューニングがうまく合わない。一週間前から電波がよくないのでラジオもテレビも調子が悪いが、これはしばらく仕方ないだろう。
「……次は、月凪公園浮遊のニュースです。突如として月凪公園が浮き上がってから一週間が経ちました。各分野の研究者が調査を続けていますが未だに原因は特定できず、周辺住民の不安は続いています」
 ラジオの声が鮮明になった。クッションにもたれて雑誌をめくっていた直也が顔を上げる。
「もう一週間か。いったいどうなってんだろうな、これって」
 そのまま窓の外に向いた直也の視線を俺も一緒に追う。
 俺のアパートから見えるのは、地上から三メートルほど浮いたため外縁を太い鎖で係留された月凪公園だった。
 
 一週間前の深夜、地鳴りが聞こえたような気はした。すわ地震かと布団から身を起こしたが、その後は静かなものでそのまま寝てしまった。
 驚いたのは翌朝である。
 外がやけに騒がしいと窓から顔を出してみれば、近くにある月凪公園の周りに人だかりができていた。目を凝らすと、その公園が地面から浮き上がっているように見える。
 そんなまさかと思いながらも野次馬根性で駆けつけてみれば、公園はまだまだ浮き上がるつもりのようでゆっくりと上昇中だった。
 ほどなく警察や消防団が到着した。はじめは呆気にとられていた面々だったが、公園が身震いするようにばらばらと土を振り落すと、一斉に我に返ったようで大騒ぎになった。
 月凪公園は外縁に杭を打たれ地上と鎖でつながれた。それは未知の生命体が捕えられているような異様な光景だった。
 野次馬が集まりその浮遊の様子はSNSで拡散され、マスコミが大挙し連日報道がなされている。
 超常現象研究家だとか地質学の専門家だとかが、この状況の原因究明に日々取り組んでいるようだが進捗ははかばかしくない。
「このまんまなのかねえ」
 直也が雑誌を放り、窓際にいた俺のとなりに座った。またラジオにノイズが交じり出す。電波がよくないのは公園浮遊の影響なのだろう。
 直也はこういう不思議なことに目がないやつで、このところ俺のアパートに入り浸っている。知識もけっこう豊富なようだが、こんな現象は聞いたこともないと言っていた。
「ちょっと思うんだけどさ……」
 俺は直也に視線を向けたものの少し口籠ってしまう。彼は首を傾げる動作だけで先を促した。
「土地の意志ってことはないかな。つまり、これは月凪公園自身の意志で浮き上がってるっていうか……毎日ここで見てるとさ、ときどき焦ったように公園が動くときがあるんだ。鎖を揺らして土を撒き散らして、もっと上に行きたい、みたいな」
 直也は片眉を器用に上げてふんと鼻を鳴らした。
「何のファンタジーだよ。まあ、土地神なんていう概念もあるけど……土地に意志……ねえ」
 ラジオのノイズがひどくなる。それは地上に繋ぎ止められ野次馬やマスコミ、それを制する警察官など大勢の人間に取り囲まれた公園の苛立ちのようにも思えた。

 月凪公園が猛然と鎖を引きちぎり遥か天空へと上昇を速めたのは、人々を無差別に狙うと声明を出した爆弾魔が逮捕され、月凪公園の砂場に爆弾を埋めたと供述した日だった。
 霰のように土を撒き散らした公園は上昇を続け、どんどん小さくなりやがて見えなくなった。
 どんな原理かわからない。
 けれど俺にはやっぱり公園の意志で、自身の砂場に埋められた爆弾で人々が傷つかないようにこの地を去ることを選んだような気がするのだ。
「もしかしたらおまえの言う通りだったのかもな。同じこと考えるやつもいるみたいだし」
 俺と直也は月凪公園があった場所に立っていた。
 住宅街の中の空き地は貴重だ。またすぐに整備され児童公園にでもなるのかと思いきや、でこぼこになった地面は均されたもののもう半年以上も更地のままだ。
 しかし放ったらかしにはされておらず、近所の住民が定期的に清掃をし、外周にはぐるりと花が植えられている。
 そして公園の出入口だった場所に小さな看板が立てられていた。
 板面が上を向いていて、そこには丁寧な字で「帰還を待つ」と書かれている。
 俺はゆっくり空を仰ぐ。こんなふうに空を見て、目を凝らす癖がついた。
 青空の向こう、夕暮れの向こう、星空の向こう、俺たちはやさしい公園の帰りを待っている。


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このストーリーに関するコメント

18/06/22 むねすけ

読ませていただきました
公園が浮き上がるという異常事態がその理由をもってしっくりきて
微笑ましく「公園いいやつ」と嬉しくなりました
好きです、この作品

18/08/27 宮下 倖

【むねすけさま】
「浮遊」がテーマのコンテストにこんな奇天烈な作品を投稿していいのだろうか……と悩みましたが「好き」と言っていただけてほっとしております。いつか公園は戻ってくるのか、伝説として住民の心の中に生き続けるのか……自分でも物語の先が気になる作品になりました。
読んでいただき、またコメントもくださりありがとうございました!

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