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歌う旅人!現在、熱唱中!

18/05/27 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 アラウンド君 閲覧数:223

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今のなんて歌ですか。
 思わず立ち止まって、彼に話しかけていた。
 ここは、世に言う無人駅だった。
各駅停車しか停まらないこの駅は、一日に停車する電車も数える程で、停車したとしても、乗り降りは、数人がほとんどだった。
私は、毎日のように、通勤に使っているが、同年代の女性が使っているのは、見たことがない。多分、こんな田舎から、都会の方まで通勤していくという女性は珍しいのだ。
 他の同級生も手短な仕事や手頃な相手と、満足したように、平凡な生活を送っている。私もそうするべきだと思わないこともないが、平凡な生活に嫌気が差すことの方が多かったので、躊躇していた。
そんな気持ちを抱えながら降車した、いつもの仕事帰りだった。
 そこに、彼がいたのだ。彼が歌っていたのだ。彼の歌声が、閑散とした駅前に響き渡っていた。
胡座をかき、ギターを抱えていた。野球帽を被り、上はグレーのパーカーに、下はジーンズ。ギターはよく見る一般的な茶色いギターだった。
彼の前には、開けられたギターケースが置いてあり、スケッチブックが立てかけられていた。
『立花竜太といいます!歌う旅人!現在、熱唱中!』
 いかにも暑苦しい感じが、伝わってくる書き込みだった。
 歌い方も発声がしっかり出来ているとは言えないし、ギターの弾き方も荒い。曲のコード進行も在り来たりだし、歌詞も古臭い。取ってつけたような安っぽさが漂っていた。
 ただ、私は、思わず足を止めていた。止めて曲を聞いていた。
 何で立ち止まったかは、自分でも分からない。もしかすると、降りた客が自分だけだったので、誰も聞いている人がいなくなると思ったのかもしれない。
 だけど、彼だって、そんなことは覚悟で歌っているはずだ。シカトしても問題なかったはずだ。なのに、立ち止まってしまった。
 そして、一曲歌い終わった彼に、自然と話しかけていた。
「これは、『荒削りのロッケンロール』って曲ですね」
 恥ずかしげもなく、凄くダサいタイトルを伝えてきた。彼の顔は、満面の笑顔だった。
「僕、実は、旅しながら、ストリートライブをしてて。いろんな人に自分の音楽を聞いてもらいたくて、各地を転々としているんです」
 理由も一般的な拗らせミュージシャンの言い分そのものだった。そんな人、日本中に腐るほどいるだろう。
手段なんていくらでもあるはずなのに、なぜ、わざわざ旅をしているのだろうか。
「はい。最初は、動画サイトとかで曲をアップしてたんですけど、それだけだとリアクションも全然無かったので。それだったら、自分の足で稼ごうと思ったんです。誰かが聞いてくれるまで、旅を続けて、聞いてもらおうって思ったんです」
 彼の顔はキラキラしていた。典型的な思い立ったが吉日思考の人間なのだろう。自分が腑に落ち、納得したら、トコトン行動するタイプ。
ただ、大勢に聞いて欲しいなら、大都会の駅に行けば、人なんて腐るほどいるのに。
「大きな駅でもライブしてたんですが、人は列を作って流れていくだけだし、誰も聞いてくれないんです。だから、偏見をやめて、色んな所で歌ってみようと思って」
 だからと言って、こんな無人駅で歌っていても、時間の無駄だろうに。
「そうかもしれません。だけど、こうして出会えたじゃないですか。一人でも、二人でも、もしかしたらゼロ人でも歌う。それが大事なんです。僕は、どこでも歌い続けます。それを誰かが気になってくれればいいんです」
 そう言うと、少しだけ、彼は真剣な目をした。
「もし良ければ、ここでこうやってお話しできたのも何かの縁なので、一曲聞いてもらえませんか。是非、聞いて欲しい歌があるんです」
 先程までとは違い、真剣な目でお願いされた。じっと、私だけを見ている。目を通して、私の心まで見通そうとしているみたいだ。
 じゃあ、一曲だけ。
「ありがとうございます。じゃあ、一曲。最近、旅を続けながら作った曲です。仮タイトルは『浮遊』っていいます」
 彼は歌い始めた。自分が行き当たりばったりの旅をしてきて、そこでの出来事や風景を歌ったものだった。相変わらず、演奏は乱暴で、ところどころ音も歪む。
ただ、彼の少し走ったギターの演奏に合わせて、私の鼓動も高鳴っているのを感じた。
 この曲を聴き終わったら、一杯ビールでも奢ってやるか。折角、歌を聴かせてもらったんだし。
 いつの間にか、私からは、笑顔があふれていた。

「以上が、今回の『歌う旅人詐欺事件』の全容になります。容疑者は、ストリートミュージシャンに紛争し、田舎の寂しい女性と仲良くなり、部屋に上がり込んだ際に、金品等を盗む行為を繰り返していました。これまでに最低五件、被害届が出されています。被疑者は現在逃走中。捜査員を増やし、搜索にあたります。」


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