泡沫さん

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陰影

18/05/27 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 泡沫 閲覧数:152

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 空を見上げれば数羽の雀が青の背景をもって電線に座っている。風は生暖かさを保ちながら、二人の間を軽やかに流れた。
 君は何故に僕の左隣を歩く。
 目の前に広がるのは、はっきりとした境界のない、ぼやけきった住宅地。街の騒々しさとはとど遠く、僕らはゆらゆらと歩いている。これにははっきりとした理由がないのだから、彷徨っているのと同じだろう。
  風景の一部にしか過ぎない僕らにはこの道を踏みしめることすらできない。静かに流れる君の黒髪は、その動きの残像はこの世界をどれほど動かしたのだろうか。

 明らかに、僕らはこの世界から浮いている。

 浮いているというのは、「特に目立っている」といった意味ではなく、この世界にはっきりとした影響を与えていない、この世界の一部としてそれに取り込まれてしまっている、ということだ。まるで、ある視点から見た平面の構成要素でしかないように。
 君はいつか言った、

「仕方ないね」と。

 何が仕方ないのだろうか。その「仕方なさ」の背景にあるものは、この世界――あるいは社会――を取り巻く“自明性”の他ならない。
 あの時の君の表情は、今の君の後ろ姿には投影されない。どうもがこうとも、どう抗おうとも、この世界の“自明性”を塗り替えることは僕らにはできないのだろう。この無力さ故に僕らは風景に溶け込んだ。

 そう、どこにも落ち着くことなく浮遊しているのだ。

 僕らはこれから駅に向かおうとしている。重くまとわりつく無機質な風景を払いのけながら、ようやく駅に到着した。
 相変わらず長閑だ、これを好む者と好まない者とが存在することなど自明である。しかし、それが僕らにどう影響を及ぼすかなど知ったことではないのである。
 見えない、感じない、操ることのできない闇の中で、無限に膨張していくのだから。

 君は木陰のベンチに座り、髪をとかした。僕はその右隣に座る。
 素晴らしい時間である。それは本当か。
 それはこの世界の中での素晴らしさであって、その概念の下で成り立っているのである。これ故に、淡い自明性の重なりによって作り出された素晴らしさの空想に取り込まれてしまっただけなのかもしれない。
 そんなことを気にすることなど容易であるはずなのに、それをないがしろにして素晴らしさを感じている。これは時がたとうと変わることはないだろう。
 それにしても、いつからこのような外界とのかかわりを気にしない僕になっていたのか。いや、正しくは気にしているのだが、その意識は僕の中にはないのだろう。

 君は笑う。僕も同じく笑うのだが、その瞬間、僕はこの世界により一層溶け込んだ感覚を覚える。
 君は何を考えているのだろうか、これから何をしようとしているのだろうか、僕にはそれを知ることこそできたとしても無力を実感するだけである。太陽は煌々と照りつけ、僕らを焦燥の淵へと流す。対抗することに意味はない。それは自然なことなのだから、不自然だと勘違いしてはならない。
 これから訪れる歓喜も恐怖もすべてはこの瞬間すでに存在しているのかもしれない。いや、存在しているとしたほうがこれこそ自然だ。
 自明性の下に広がる世界には、僕たちはただの溶け込みに過ぎない。そんな溶け込みに何が起きようと、世界は気にすることはないだろう。自然と自明性。似て非なるこの両者は互いに影響しているように見えて、一切の干渉をもたない。それが起きようとするならば、世界は完全な自由奔放そのものになり、秩序という秩序を失うだろう。
 だから、僕らは自明性に従い、どんな物事に対しても全身でぶつからなければならない。自分がどうなろうと。

 君は立ち上がった。

「そろそろ行こうよ」

 僕は認めるしかない。ほかの選択肢など、選択すること自体が間違いとさせるのだろうから。
 僕らは歩き出した。まだ見ぬ未来へと。確立された、壮大な未来へと。


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