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瑠璃さん

社会人一年目のまだまだひよこ。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 思い立ったら即行動。

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浮かんでいくのは簡単で

18/05/23 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 瑠璃 閲覧数:299

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数ヶ月前に、メールでの文通にはまった。本名も、顔も、何も知らない相手との文通に。毎日1通か2通ずつくらいのやりとりを続けた。やりとりの相手は優さんという名前を使っていた。優さんは優しく楽しい人で、親や友達に相談できないようなことまで相談した。人によっては可笑しな話だと思うかもしれない。しかし、私は優さんに恋をしていた。毎日、優さんからのメールだけを楽しみに生きていた。特技や趣味などがない私にとっては、優さんとのやりとりが癒しだったのだ。私と優さんとの約束は2つ。相手の素性を探らないこと。1週間返事がなかったらお別れをするということ。

楽しい日々はあっという間で、悲しい日々は長く感じるものだ。ついに、この日が来てしまった。私は自宅のベッドに横たわっていた。重い体がベッドに深く沈む。もう二度と浮き上がれないのではないだろうか。薄々と、こうなると気付いていたけれど。私が優さんのことを好きだっただけで、私たちの関係なんて、希薄なものだったのだ。本気だったのは私だけなのだ。これ以上待っても、救いなんてないのだ。だから今日、さよならを告げようと思う。約束の1週間が経っても返事がなかったから。さよならを告げなければ、きっとずっとこのまま沈んだままだから。私はただ、ぼーっと携帯電話を見つめていた。この瞬間にも、彼から返信がないか、希望を捨てきれずにいた。もう気づいていたのに。優さんからの返信は徐々に素っ気なくなっていた。きっと私に興味を失っていたのだ。それでも祈らずにはいられなかった。少なからず彼に恋心を抱いていたから。私の部屋に差し込んでいた西日がすうっと消えて、かわりに夜が差し込んできた。風にたなびくカーテンも、沈みつつある夕日も、全てが憎らしかった。
「苦しい。」そう小さく呟いた。携帯電話を胸に抱きながら。そうすれば、この言葉が彼に届くことを信じながら。苦しい。苦しくて、辛い。私の頬をつたって一粒の雫が枕に落ちたとき、覚悟を決めた。携帯電話を握りしめて文字を打ち込んでいく。画面がぼやけて見えにくい。それでも、やめるわけにはいかない。ここでやめたら、きっともう二度とさよならが言えなくなる。溢れ出す涙が邪魔だった。予測変換ででてくる、君の名前も、邪魔だった。苦しい。助けて。誰かが訴えかけている。それを無視して、お別れの言葉を打ち込んでいく。
「さようなら、優さん。」と私は呟く。溢れ続ける涙が冷たい。息が苦しい。胸が痛い。しかし、グダグダと悩んでいた頃に比べて体が軽い気がする。今なら、何処へでも浮遊して行けると勘違いしそうなほどに。


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