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まきのでらさん

某老舗同人集団所属。 キャリアだけは無駄に長いです。 よろしくお願いします。

性別 男性
将来の夢 作家
座右の銘 特に無し。

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幽体サバイバー

18/05/22 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 まきのでら 閲覧数:241

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 強く意識しろ!
 スピードを上げろ!
 俺は俺だ!
 俺の肉体は俺だけのもんだ! 誰にも渡しゃしねえっ!!

 はじまりは何時間か前のこと、その夜は久々に自分を慰めて賢者モードで眠りに落ちた。
 次に目を開けると俺は俺を見ていた。これをどう表現したものか。つまりは意識だけがふわふわ浮遊して自分の部屋の天井から寝ている俺を見ているってヤツ。とどのつまり幽体離脱とかいうアレだ。
 はじめは驚いたが意外と気持ちは落ち着いていた。正直言って夢かな? とも思っていた。
 なので折角だからどこまで離れられるのか試してみようと思った。窓は簡単にすり抜けられた。
 ふわふわ浮かぶ俺の意識。
 妙な心地よさ。
 俺の部屋は二階にあり、それなりの高さなのだが恐怖はまるで感じない。普段の俺は高所恐怖症だというのに、不思議だ。
 ふわふわ、浮かびながら移動する。
 陽が昇りはじめている。たぶん朝の五時くらいか? 今日は金曜。登校日。でもまだ身体を寝かしといても大丈夫だろう。
 俺は余裕の心持ちで動き始めた町を俯瞰する。
 五時なんていつも寝ている時間だから知り得なかったが、家々の灯りは意外と多く灯っている。
 早寝早起きが習慣として染み付いているのか、年寄りが何人か、外に出て来ているのも新鮮な気持ちになる。
 オレンジの色を強くしはじめた太陽を眺める内、どうしてもこの日の出をベストの場所で見たくなり、俺は家から少し離れた大きな電波塔を目指すことにした。
 スピードが出ないのがどうにももどかしい。
 それでもやがては辿り着き、電波塔の頂で、でっかいバレンシアオレンジみたいな太陽を有り難く拝んでいると、不意に
「もし、お兄さん」
 と声を掛けられた。
 驚いて振り向くと初老の男が気弱そうな笑顔をコチラに向けている。
「アンタ誰? 俺が見えるのか?」
 意識だけが抜け出ているようなつもりになっていた俺は思わず尋ねていた。
「見えますとも。私もお兄さんと同じ幽体ですから」
「あ、そう。幽体ね。アンタも朝、目が覚めたら……ってヤツ?」
「そうです。いや、正しくはそう『でした』……」
「何で過去形なんだよ」
「私はもう自分の身体に戻れなくなってしまったのです」
「へ?」
 そんな事態が起こり得るなんて! 俺はひどく動揺していた。
「お兄さんはまだ離脱したてだろうから見えないと思いますが、この空中には身体を失って魂だけになった存在がウジャウジャいるのです。ソイツらは私たちのように偶然、身体が空いてしまった人間を狙う。つまり身体を乗っ取ってしまうのです」
 うげえ! そりゃヤバイ! 身体を離れてどれくらい経ったろう!?
 俺は今すぐにでも帰りたくなった。
「教えてくれてありがとうよ。そんで、オッサンはどうすんだ?」
「誰か身体に空きが出来るのを待つしかありません。今のあなたのような」
「へ? それって……」
「そう。つまり私も『狩る側』ということです」
 その時、柔和だった男の雰囲気がガラリと変わった。獲物を狙う猛獣のそれだ。
 おいおいおいカンベンしてくれよ! 
 それなら何でワザワザ教えてんだ黙って行けよ! 
 と内心でツッコミつつ、俺はオッサンより早く身体に戻るべく移動を開始した。
 しかし、ふわふわした浮遊速度はやはり変わらない。
 クソヤバイ! このままじゃ俺はユーレイだ!
 そんな俺の隣を、オッサンがスイーと滑るように移動していく。まるでスケーターのように。
 見れば彼だけではなく、多くの幽体がゾロゾロと蠢きながら空中を漂っているのが見えてきた。
 うぎゃあキモイ!
 俺は増々焦るがやはり速度は変わらない。
 どうしよう!?
 俺の頭を走馬灯のように人や物が駆け巡る。
 無口なトーチャン、世話焼きカーチャン、生意気な妹、ボケてるバーチャン、学校の友だち、片想いのあの娘、ベットの下のけしからん本やDVD。
 ああクソ、帰りてえ帰りてえよう。
 すると少し速度が上がったことに気付く。そうか、つまりは意志の強さってヤツか。俺は再度強く意識する。身の回りの大切なモノを。
 するとスピードはぐんぐん上がる。まるでレーシング・カーだ。
 オッサンを追い抜く。他の幽体どももブッちぎる。
 どうだザマアミロ!!
 俺は勝利を確信し、部屋の窓に飛び込んだ。目を開ける。自分の身体を確かめる。
 戻っている。ヤッタ!!
 しかし本気で焦った。今となっては悪い夢のようだ。あれは現実だったのか?
 心臓の高鳴りと寝汗のべとつきで生きていることを実感しつつ、不意にベッドの下を覗く。そこには大事なコレクションが並んでいた。
 家族や友だちよりもコイツのこと考えたらスピードが上がったなんて、誰にも言えやしない。
 一生胸に閉まっとこう。いつか幽体だけになるその日までな。 了 


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