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若早称平さん

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恋愛相談

18/05/22 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:316

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 父からこのバーを受け継いで二年が経つ。軒を連ねる店の半分がシャッターの閉まったこの平手町商店街の地下に僕がマスターを務める「ラブリーインフェルノ」はある。一刻も早く改名したいくらい絶望的なダサい名前だが父が存命の間は絶対に許さないと言い張るので、僕は血の涙を流しながら今夜もネオンを点灯させる。

 店名のせいなのかこの土地柄なのか客層も個性的な人が多い。もとい、変人が多い。今夜は常連の五郎さんが開店から指定席となっているカウンターの一番奥でビールを舐めるようにちびちびと飲んでいるだけだったが、午後十一時をまわった頃、店の入り口が乱暴に開かれた。
「マスター、ちょっと聞いてくださいよ!」
 すでに酔っぱらっているのか、怪しい呂律で喚くのはこれまた常連の詩織ちゃんだった。顔は抜群に可愛いのに性格に難があるのかよく失恋の愚痴をこぼしに飲みに来る。詩織ちゃんはどかどかとした足取りで真っ直ぐにカウンター席にやってくる。座るやいなやテーブルに突っ伏しながら「いつもの」と注文する。ちなみに彼女の「いつもの」というのはハイボールのことだ。
「詩織ちゃん、またふられたのかい?」
 よせばいいのにニヤニヤしながら絡んできた五郎さんを殺す勢いで睨みつけると「マスター聞いてくださいよー」と眉間のしわを残したまま僕の方へ向き直る。

 前に詩織ちゃんが飲みにきたのは先週のことだった。その日は今夜の醜態が嘘のように上機嫌で、新しくできた彼氏ののろけ話を聞いてもいないのにしゃべり続けていた。
 それからわずか一週間で一体何があったのか? ふられて落ち込んでいるというよりも怒り心頭と言った雰囲気の彼女にハイボールとチーズを差し出すとグラスの半分を一気に飲み干した。
「始めはいつになく順調だったんです」そう言って彼女は語り出した。と言ってもここが三軒目らしい彼女の話は支離滅裂で聞くに堪えないので、かいつまんで僕が話そうと思う。

 彼女の難のある性格というのを具体的に言うとわがまま、嫉妬深い、束縛、短気、とそこらの男性諸君が面倒臭いと思う要素を余すところなく兼ね揃えていた。その性格を遺憾なく発揮し、大抵は最初のデート、持って二回目でふられるのが常だというのに、今の彼氏とは今日が三回目のデートだったらしい。
 三回目のデートというのは今も昔もある種特別な意味を持つ。僕が高校生で初めて彼女ができた時にも同じように関係の進展を期待して三度目のデートに臨んだものだ。
 付き合いたての彼氏の肩にもたれかかり「今夜は帰りたくない」という最強の殺し文句を炸裂させた彼女に彼氏の返答は「ごめん、俺寝ると浮いちゃうから一緒に寝られないんだ」という謎めいたものだったそうだ。
「どういうこと?」
 当然のように詩織ちゃんが尋ねると「眠りに落ちるとだんだん体が宙に浮かんでさ、天井近くまで上がるんだよ」と答えたそうだ。それでも構わない、家に行ってもいいか? しつこく食い下がると「うち暖房とかないからさ、寒いんだよ。俺が浮かび上がっちゃうと布団全部持っていっちゃうから、風邪ひいたら悪いだろ?」そう言われて解散になったそうだ。

 ここまで話した時点で詩織ちゃんは四杯のグラスを空にしていた。五郎さんがすっかりぬるくなったであろうビールを舐めながら「うんうん、そんなこともあるよね」などと無責任な相づちを打つ。
「どう思います?」
 意見を求められ、グラスを磨く手が止まる。正直に言えば詩織ちゃんを疎ましく思った男のでまかせとしか思えない。もちろんつくならもっとマシな嘘をつけとも思うがそこは個人差があるのだろう。
「どうなんだろうね」
「私はこれが世に言う草食系男子なんだ、と思いました」
 僕のお茶を濁しただけのコメントに被せるように彼女が言う。
「でももしも本当に寝ると浮く人なんだったらそれ見てみたくないですか? 私の好奇心を無駄に煽るところをみると本当の話なんじゃないかと思ってきちゃって……」
「そうだね、次の機会に確かめてみたらいいじゃない」
 僕が適当にあしらったのは面倒臭くなったからではなく閉店の時間が来たからだった。

 結局次に詩織ちゃんがバーに来る頃にはもうその彼氏とは別れていて、寝ると浮くというのが本当だったのかはわからずじまいだった。彼女の無駄に煽られた好奇心はどこへ消えたのか、すでに新しい男の目をつけていて、また終始のろけ話を聞かされるはめになった。

「マスター、聞いてくださいよ!」
 それからまた数日が経ち、デジャヴのように彼女が店に駆け込んで来た。
「今度の彼氏は寝たら光るって言うんですよ。全く、世の中の男はこんなのばっかりなんですかね?」
 それを聞いた僕は思わず磨いていたグラスを落としそうになった。


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