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広田杜さん

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塔の女

18/05/11 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 広田杜 閲覧数:336

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その塔のてっぺんには、一人の女が定住していた。
浮力を纏ったその女は、飽きることなく塔の周りをくるくると回り浮いている。長い髪が風にたなびいているのがわかるが、地上の私からは表情まではわからない。私もまた飽きることなく彼女を見上げる地上の人間の一人だった。
あるよく晴れた日のことだった。塔の上の彼女は動きを止めると、空の彼方へ顔を向け何かを見つめている。ちょうど地上の人間たちが彼女を見つめるように。彼女は何を求めているのだろう。私は彼女の寂しそうな様子がどうしても気になり、塔に登ってみることにした。
その塔には登ってはいけないという決まりが私の町にはあった。いつからか塔の上に浮かぶ彼女を神格化する過程で作られた決まりだ。彼女は一部の人間の手で女神になろうとしていた。私は小さな時から塔のそばの小さな家に住んでいて、時折彼女を見上げていた。彼女をただいたずらに孤独にする話には耐えられなかった。
ある星の多い夜、私は塔を登り始めた。塔の周りを沿うようにして螺旋状に続く階段を上る。高さがあるにつれ肌寒くなり呼吸は浅くなった。何度も止めかかった足を無理やり前に出し、私は登った。
月のない夜だった。階段を登りきった私は彼女と目を合わせる。彼女は青空のような澄んだ瞳を持つ少女だった。
彼女は空中を歩き、私の目の前に立つ。「どうしてあなたはここにいるの?」まっすぐな目で問いかけられた。
私は答えた。ずっと彼女を見上げていたこと。会ってみたかったこと。来てはいけない決まりができたがおかしいと思ったこと。彼女を一人にはさせない、私が孤独を癒してあげたいこと。彼女は無表情にそれを聞くと、悲しそうに目を伏せた。
しばらく静寂が広がった。彼女はひとつ瞬きをし、私の目を見て、言った。
「私の浮力は孤独と引き換えに生まれるものなの。だから会いに来ちゃいけない決まりがあるのよ。どうして決まりを守れなかったの?どうしてここに来てしまったの?どうして私を渇望してしまったの」
彼女のことを一番求めていたのは他でもない私だった。彼女の存在に夢を求めていたのも。私がそれに気づいた時には全ては遅かった。浮力を失った彼女は、闇の底へと堕ちていった。私は誰もいない空で、塔の周りを回り始めた。


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