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清野勝寛さん

性別 男性
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Spilling out of hand

18/05/11 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 清野勝寛 閲覧数:342

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 そう、酷く雑多だった。馬鹿みたいに大声を上げ、自らの足で立つことも出来ず、誰かに支えてもらうことが当たり前だと思っているおめでたい奴等。そんな連中が、間もなく最終電車が到着する駅のホームに蔓延っている。
 俺も、こんな醜く愚かに溢れるゴミ共と同じ「人間」であるのかと考えると、生きているのが馬鹿らしく思えてくる。蛍光灯が明滅するその下で、奴らを蔑む言葉を飲み下し考える。どうして奴等はあんなにも雑多なのだろう。疑問や違和感を持たないのだろう。これではまるでその感覚を共有出来ない、俺だけが異常者ではないか。俺だけが路傍の塵芥ではないか。
 その答えに一人辟易していると、とうとう最終電車が駅のホームに飛び込んできた。黄色い点字ブロックの上で酩酊し、最早列の形を成していない人ゴミを避けるように俺は自販機に寄りかかる。先程まで一緒にいた彼女が未だ戻らないからだ。置いて帰ってもよかったが、女を一人捨て置く罪悪感から一歩を踏み出せなかった。悪いのは向こうだと言うのに。

「ごめんこうた……めっちゃリバってた……うぇえ……」

  最終電車が過ぎ去ってから五分後、フラフラと俺の前にやって来て座り込んだ雑多な女が俺を待たせた張本人。顔面蒼白とした彼女はさっきまで居座っていたレストランでこれでもかとワインを飲み、結果無様な姿を衆目に晒している。

「知ってるよ優希。ほら、タクシーで帰ろう。車内で吐かれると困るんだけど、もう全部出しきった?」

 自販機で水を買い手渡す。……蓋を開けることも出来ないのか。一度優希の手から水を奪い、口を開ける。彼女はありがとうと呟きチビチビと水を飲む。動く喉元が妙に艶かしい。快活な人間が弱っている姿というのはなんとも滑稽で、扇情的だ。ゴミ屑のようにグシャグシャにしてやりたくなる。

「……水ってこんな美味しかったっけ」
「水はいつも美味しいよ」

 どうやら少し回復したようだ。俺の身体にしがみつきながらゆっくりと立ち上がる。優希が歩けるうちにさっさとタクシーを拾おう。

「こうた、手」

 そう言って俺の手を掴む。体が一瞬硬直する。他人に触れられると起こる、条件反射みたいなものだ。心臓に悪い。彼女はそのまま俺の手を両腕で抱き抱え、寄り添う。寄り添うのも寄り添われるのも得意ではない。俺は一人で立って歩ける。

「何、照れてるの」
「そんなんじゃないよ。優希は図々しいなと思って」

 他人に支えられて歩くのが当たり前だと思っているおめでたい奴等。彼女もその一人。雑多なうちの一人。

「あー今そういう小難しい話は受け付けませーん」
「別に難しいことじゃないさ。優希が勝手に俺の話を勝手に難しいと……」

 生暖かく柔らかいものが耳に触れ続きの言葉を忘れてしまう。その話はもういいということらしい。
 まず口を洗ったのか確認したい。そんなことを彼女に言えば、今度は口を狙われるのは目に見えているので何も言わないが。

「やめてくれそういうの」
「んふふ、こうたは可愛いなぁ」
「……理解出来ないよ俺は。君のこと」

 タクシー乗り場には人が列を作っていた。ほんの一時の快楽に負け、電車賃の何十倍を払って帰宅するこの行動はやはり愚かで、人として間違った行為だと思う。だが隣に居座り、勝手に寄り添ってくる彼女を放っておけない俺もまた、正しさの中にいないのだ。

「奇遇だね。私もキミのこと、全く、これっぽっちも理解出来ないよ」

  漸く最前列になった。ヘッドライトを揺らしながらロータリーをタクシーが回っている。もしもあのライトで未来を照らせたら、こんな間違いはしなくて済むのだろうか。
 俺は正しさが欲しい。正しくありたい。人として。
 どこにいても、誰といても。

「だからこうたのこと、好きになったんだ」

 彼女の言葉は聞こえないふりをしてタクシーに乗り込む。運転手に俺の家の住所を告げる。扉が閉まり、急アクセルでタクシーは発進した。この運転手もうんざりしているのだろう。夜も更け睡魔と闘いながらこんな雑多な客を乗せなければならないのだ。しかも俺の家はここから随分と遠い。

  動き出してすぐ優希は俺に寄り添って寝息をたてた。使えなくなった左手を諦め右手で携帯を操作して時間を潰す。

 きっと運転手には俺達も、つい先ほどまでこのタクシーに乗車していたであろう「ゴミ屑」のような乗客と、大差なく見えている。それはとても悔しいことだが、隣で眠る彼女の暖かさに少しでも愛しさを覚えているうちは、俺はいつまでも間違い続けていくしかないのだ、きっと。

  車内から流れる景色を見て、俺もそっと目を閉じた。


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