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井川林檎さん

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もし、山田君が飛べるようになったなら

18/05/07 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 井川林檎 閲覧数:451

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 飛行が上手いひとほど、ヒエラルキー上位者。
 すうっと大きく円を描いたり、気の合うひと同士でダイナミックなダンスを踊ったり。
 
 電線に触れるか触れないかの際どさで、おどけたように飛ぶ彼ら。
 かっこいい。素敵。先生たちや親たちは、危ないから飛ぶときは、電線に触れない位置でまっすぐ飛びなさいと口うるさい。でも、そんな注意なんか守るわけがない。
 
 カッコイイとされる子たちはみんな、ハラハラするような飛び方を楽しんでいる。
 登下校の時に思わず足を止めて見入ってしまう。
 女の子たちの中でも、勝気で活発なグループは男子に混じって飛ぶ。スリルのある飛び方をする子はモテた。

 子供は浮遊するもの。飛べて当たり前。
 飛べないなんて、自転車に乗れないのと同じレベルだ。

 小学校低学年の体育の時間で「飛ぶ」ことを教育されるけれど、だいたいの子は学校の授業で教えてもらうより早く、好き勝手に飛んでいる。


 中にはニブくて、一生懸命助走しても、飛び上がれずに顔面からアスファルトに倒れ込み、鼻血を出す子もいる。
 同じクラスの山田君は、本当にニブくて可哀そうなくらい。男子たちからは馬鹿にされている。女子たちからは、キモイと言われている。だけどわたしは、そんなに山田君が嫌いではない。山田君には恩があった。

 忘れ物をした時、山田君は快くなんでも貸してくれた。飛ぶことはできないけれど、毎日宿題は必ずしてきたし、コツコツと努力する性格だ。お掃除も丁寧だ。
 なにより数日前、横断歩道で重たい袋を持ったおばあさんを助けて歩く姿を見た。
 学校の帰りだった。たまたまわたしは日直で、いつもより遅い帰宅時間で一人で道を歩いていた。飛行して帰るのは、友達みんなといる時だけ。一人で飛ぶのは浮かれているみたいで、なんだか恥ずかしいのだ。

 山田君がおばあさんを手伝って歩道を渡り終えたのを見届けて、わたしも走って歩道を渡った。
 周囲には誰もいなかったし、今なら山田君に話しかけられると思った。

 「いいことするじゃん。作文に書いたら褒められるよ」
 わたしが言うと、山田君は滅相もないという顔をした。
 「僕は地面を歩くばっかりだから、歩いている人のことが嫌でも見えるんだよ。空を飛べていたら、ばーちゃんを手伝う事もなかったと思う」
 山田君はそう言うと、ちょっとだけ恥ずかしそうにして、わたしから顔をそむけたのだった。

 そう言う山田君の顔や手は、傷だらけ。今日も一人で校庭で飛ぶ特訓をしていたんだろうな。
 なかなか飛べない、山田君。


 雨の日も、風の日も、暑い日も、寒い日も。
 山田君は、野球クラブの子たちが練習をする校庭の隅っこで、コツコツと練習をしている。
 時々、体育の先生もつきあって、笛を鳴らしながら飛ぶタイミングのアドバイスをしている。
 どべべべべ、と走り、ピッ、と笛が鳴ったら踏み切って、お尻を上に持ち上げるようにして空に向かう。もう少し、だけど駄目だ、どすんべとん。顔面から土の中に突っ込む。痛そう。

 「うっわー、無駄だからやめればいいのにー」
 「最悪かっこわるーい」
 ヒエラルキー上位の女子グループが、笑いながらそれを眺めた。そして、校門を出ると同時に軽々と踏切り、夕暮れ間近の大空に飛びあがる。すうい、くるくる。赤いランドセルがいくつも空に舞う。ちゅんちゅんちちっ。電線に止まっていた雀たちの群れが大急ぎで逃げてゆく。

 わたしは、仲良しのまーちゃんと二人で、とことこ歩いて校門を目指した。
 活発な女子グループは、なんだか怖かった。わたしたちは二人とも飛べたけれど、端っこでそうっと飛んで、目を付けられない程度に楽しんでいれば十分だった。そりゃあカッコヨク飛ぶ男の子は素敵だけど、とてもじゃないけれど近づけない。

 笛の音と、先生の大きな声が聞こえる。
 ちらっと工程を見ると、土塗れになった山田君が顔を拭いながら立ち上がったところだった。
 あちこち傷だらけになって、まだ飛べない山田君。学年で唯一飛べない子、山田君。

 「飛べなくたって、君には他の人にはない取り柄があるぞ」
 と、先生が言っているのが聞こえた。
 まーちゃんが足を止めたので、わたしも立ち止まった。まーちゃんが真剣な目で、校庭を見ていた。

 山田君は泣いているみたいだった。先生に肩を抱かれ、何かお話をされているけれど、頑として首を縦に振らない。山田君の大きな声が聞こえて来た。
 「だけど僕は飛びたいんです。飛びたいんです」

 (もし山田君が飛べるようになったら、おばあちゃんを助けることは、もうしなくなるのかな)
 
 ふっと隣を見ると、まーちゃんが目をキラキラさせていた。
 「山田君、カッコイイ」
 まーちゃんは言った。


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