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KOUICHI YOSHIOKAさん

性別 男性
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災い男

18/05/05 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 KOUICHI YOSHIOKA 閲覧数:530

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「もっと石をなげろ。そんなんじゃ、あいつには届かないぞ。ぶつけて災いを落としてしまうんだ」
 楡の木の下で村の顔役の男に怒鳴られながら、数人の子供たちが木の上をめがけて石を投げていた。木の上では今年の災い男が枝にしがみついている。
 災い男とは一年間のありとあらゆる災いを肉体に宿した男のことである。二百年前からこの村では五月五日の日に災い男を一人選び、神社の御神木でもある楡の木に登らせて、十歳以下の子供たちに石を投げさせ落とさせていた。
 これは立派な神事であり、厳粛な村の儀式であった。だから危険なことを承知の上で災い男に石をぶつけて怪我をさせたとしても罪になることはなかった。仮にそのせいで死んだとしても誰からも咎められることはない。あくまでも昔の話だが、石投げによって災い男が死んだなら、災いが消えたということになり村では祝いの赤飯が配られるほどのめでたいことであった。
 災い男は村の外から選ばれた。昔は罪人がなっていたそうだが、今ではアルバイトの学生を雇い災い男の役をさせていた。
「ころ合いを見計らって木から降りてくれればいいから」
 村の顔役からそういわれ、アルバイトに気楽に応じた今年の災い男は、ここまで危険な仕事だとは思っていなかった。
 石が投げられはじめたらすぐに木から降りるつもりだったが、あまりに激しく石が投げられ続けるので降りるに降りられなかった。
 じきに疲れて投げられる石も減るだろう。そうしたら降りればいい。そう思いながら四方から飛んでくる石を避けながら木にしがみついていた。
 木の高さは神社の屋根と同じくらいで、災い男は屋根より少し下くらいの位置まで登っていた。赤い法被のようなものを着せられていたので目立つし、木の真下からは木の葉の邪魔もないので絶え間なく石が飛んできた。
「災いに石をぶつけるんだ。災いをやっつけてしまえ」
 子供たちは「おおっ」と声をあげ、石を投げ続ける。こぶしくらいの大きな石もあれば、砂粒のような小さな石も飛んでくる。
 ほとんどの石は体には届かないが、ときどき服をかすめたりする。子供たちの投げる石とはいえ侮れない。石は石、体を掠めただけも痛かった。
「ぜんぜん当たらないじゃないか。もと高校球児の俺が見本をみせてやる」
 村の顔役はしゃがんでこぶし大の石をつかむと、災い男めがけて投げつけた。石は勢いよく飛んで災い男の額に当たった。
 鈍い音とともに額が割れて血が流れた。災い男はふらつき木から落ちそうになったが、幹の方に倒れたので運よく落ちずに済んだ。もしこの高さから落ちていたなら骨折以上の怪我をしたに違いない。
 子供らの歓声が聞こえてくる。俺も、俺もと石の勢いは増してくる。
「やめろ、怪我をしたんだ」
 災い男が木の上から怒鳴ると、一瞬子供らの手は止まった。すると村の顔役は満足そうに手をたたいた。
「やった。災いに怪我をさせたぞ。いいか、災いは排除しなければならない。俺を見習ってもっと災いを懲らしめるんだ」
 災い男に怪我をさせるのは良いことなのだ、と知った子供らは気持ちを引き締めたように再び石を投げ始めた。投げる程に精度はあがり、災い男の体にぶつかるようになっていった。いくつもの石が腕や足や腹に当たった。
「降りるから、いま木から降りるから」
 災い男は石に当たりながらゆっくりと木から降りていこうとした。
「そら、姿をみせたぞ。いまだ、石をぶつけるのは今だ」
 無防備な災い男はかっこうの標的だった。石は顔や頭にあたり、瘤ができ痣ができ、切れて割れて体中から血が噴きだした。
 災い男は木を降りるのを止めた。幹の影に体を隠しながら登りはじめ、枝と枝の間に身を隠した。
「おおい、災い男、そろそろ木から落ちていいぞ」
 村の顔役は子供たちが石を投げるのを止めると、木の下から手を振りながら声をあげた。
「いやだ、俺はもう木から降りないぞ」
「木から落ちるのがお前の仕事だろうが」
「バイト代はいらない。日が沈むまでに俺が木から降りなければ、この村に災いがふりかかるんだよな。俺は本物の災いになってやるんだ」
 顔に血をのぼらせて真っ赤になった顔役は木の幹を何度も蹴った。自ら石を投げ、子供らにも石を投げさせたが災い男が音をあげることはなかった。
 太陽が稜線に沈んでいく。顔役は焦って木を登りはじめた。登って災い男を引きずり降ろすつもりだ。神事では認められていない行為ではあったが、そんなこと言っていられなかった。
 このままでは村に災いがふりかかってしまう。
 ぐんぐん登っていき災い男の足首を掴もうと手を伸ばした瞬間、災い男は枝の上に立ち両手をひろげ、紫色に染まった空に向かってまっすぐに飛翔した。
 太陽は今まさに沈もうとしている。災い男はきょとんとした子供たちを見おろしながら空高く浮遊し続けた。


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