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いっきさん

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四次元ロッカー

18/05/04 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 いっき 閲覧数:370

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「うっわ、祐飛のロッカー、すごいゴミ」
 千佳が俺のロッカーを見て、眉を顰めた。
「ゴミじゃねぇよ。まだ使える物を捨ててしまったら勿体無いだろ」
「いや、使わないでしょ! 私が、掃除したげる」
 千佳がロッカーのものを全部出した。一回はめて殆ど使わなかったゴム手袋。裏紙にするつもりだったプリント……今までロッカーを隠れ蓑にしていた資源達が放り出される。
「ちょ、ちょっと。全部、いつかは使うものだって」
「そんなこと言って、溜めこむだけでしょ……うっわ、何これ。今までどうやって入ってたの?」
 大量の資源達は、ロッカーの幾倍もの量になっていた。千佳は溜息を吐いた。
「これ、『四次元ロッカー』ね。今日から、あんたのアダ名よ」
「おお、いい名前だ。ロッカーを目指す俺にぴったり!」
「馬鹿なこと言ってないでゴミ袋に詰めて!」
 結局、ロッカーの資源達は、捨てられることになった。
 千佳は幼馴染で同じ大学の電子工学の研究室に入った。そのお節介は研究室にとどまらない。
 俺は軽音サークルでロックのボーカルをやっているのだが、千佳はライブをする時には友達に声掛けをしてくれたり、飲み物を差し入れてくれる。お節介な彼女はいつも側にいて当たり前……そんな存在だった。

 翌日。
「やれやれ、閑散としちゃって」
 俺は寂しくなったロッカーを見て溜息を吐く。しかしその中に一枚、紙を見つけた。
 あれ、昨日の生き残り?
 それには設計図が書かれていて『浮遊装置』と印字されていた。
 何だ、これ?
 この設計図の装置を装着すると、重力から解き放たれる装置みたいだ。興味を惹かれた俺は装置を作ることにした。勉強は苦手だが、設計図の通り作製するのは得意だ。
 高圧電流で強力な磁力を発生させて地球の放つ磁力と反発させ、装着した者を重力から解き放つ。調節用のつまみで浮く高さも調節できる……そんな装置が完成した。
「すごい……本当に浮遊できる」
 装置をつけて感動した。まるで四次元空間にいるかのように、ふわふわと浮くのだ。
 あれっ? 四次元……その言葉から、アダ名を思い出した。
 『四次元ロッカー』……そうだ! この装置をつけたら、それが可能なんだ!その思いつきに顔がニヤけた。

 真っ暗なライブハウスには蛍光塗料を塗った星が瞬いている。
「すごい……ライブ、いつもと違う感じ」
「名前も。四次元ロッカーってどんなだろう?」
 聴衆達のひそひそ話が聞こえる。
 次の瞬間!ステージ上の空間……無重力の俺にスポットライトが照らされる。
「え、うそ!浮いてる……どうやって?」
 聴衆はざわついた。
 そして、鳴り始めるロックンロール。無重力の俺は宙にダイブする。
「すっごーい!」
 聴衆の瞳はまるで瞬く星のようにキラキラと輝いた。ステージ上でのジャンプ、宙返り……パフォーマンスの数々を演じて歌い続けた。ライブは大成功だった。

「お疲れ様。白熱したライブだったわね」
 ライブ終了後、千佳がスポーツ飲料を持って来た。
「おぅ。パフォーマンスが効いてたからな」
「こんなに成功するなんてね。これで祐飛も大人気ロッカーね」
 そう言う千佳は、少し寂しそうに見えた。

「凄かった、四次元ロッカー! ねぇ、どうやって浮いてたの?」
「ホント! 一体、どうやってたの?」
 ライブハウスを出た俺は、黄色い声に包み込まれた。どうやら、一気にファンができたみたいだ。
 しかし、ここで一つのことに気付いた。そういえば、千佳の奴、無重力のことは不思議がっていなかった。ということは、やっぱり……。

 研究室では千佳が一人、何か書いていた。
「相変わらず、設計図作りに熱心だな」
「あれ、祐飛……ファンの子と喋ったりしないの?」
「ああ。俺、ファンサービスとか苦手なんだ」
「何それ。ファンを大切にしなきゃ……」
 千佳がいい終わらぬうちに設計図を見せた。
「これ。ロッカーに置いたの、お前だろ?」
「さぁ。何、それ?」
「浮遊装置の設計図。おかげで今日、パフォーマンスができたんだ」
「さぁ、何のことかしら」
 千佳は澄まし顔で、紙に続きを書き始めた。そんな彼女に俺の顔は綻んだ。
「ところで、今度は何書いてんの?」
「んー、ヒミツ」
 俺は思わず吹き出した。
「まぁ、お前ならできるかもな。ロッカーの中で時空間に歪みを発生させる」
 しゃがんで、千佳と目線を合わせた。
「完成したら、また作らせてくれよ。だって俺、将来はお前とじゃないと考えられな……」
 すつと俺の口に千佳の唇が重なった。暫し目を閉じて……顔を離した千佳は頬を赤くした。
「今度は難しいわよ。あんたに作れるかしら?」
「大丈夫だよ。だって、俺は『四次元ロッカー』なんだから」
 『四次元ロッカー』の設計図の前で俺達は、顔を赤らめて微笑み合った。


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