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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

性別 男性
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つなぎとめて

18/05/03 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:405

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 家で飼っていたオカメインコのピーちゃんが先日、寿命で亡くなってしまった。
 私が結婚する前から飼っているインコで、娘の夏子が産まれてからもピーちゃんは、私が覚えさせた童謡などを、陽気に音程を外しながら唄った。可愛い子だった。

 そんなピーちゃんの死を一番悲しんでいたのが、幼稚園の年長さんになる夏子で「ピーちゃんにはもう会えないの?」「ピーちゃんに会いたいよ」なんて、怒涛の質問攻撃を私に毎日浴びせてきた。
 
 その攻撃に限界を迎えた私は、日々の生活でイライラが溜まっていたのもあって、つい娘を怒鳴ってしまったのだ。
「しつこいよ、なっちゃん! ママ、言うこと聞かない子は嫌い」
 そう言うと娘は、静かに一筋の涙を流し、一足先に寝室へと向かってしまった。

 私はテーブルに肘をつき、頭を抱えた。大人の都合で、しかも一方的に“嫌い”だなんて最低な言葉を投げかけて、無理矢理子どもの感情をねじ伏せてしまった。母親失格だ。

 私は娘に謝るためベッドへ向かうと、夏子はすでに夢の世界へと旅立っていた。
 私は夏子の濡れた下瞼を指で拭うと、彼女の隣で仰向けになり、そのまま瞼を閉じた。

 ーー私は、眠りが浅い。
 少しの物音や他者の動きにも敏感なので、すぐ異変に気がついた。
 横で寝ていた夏子の体重が、少しだけベッドに沈むと、次の瞬間ふっとその重みが消えたのだ。
 トイレにでも行ったのかと、薄目を開けて隣を見るとーーなんと夏子の体が、信じられないことに1メートルほど宙に浮いていたのだ。

 私は急いで夏子を抱きかかえて、そっとベッドに下ろした。朝方になるまで夏子のことが気がかりで眠れなかったけど、しばらく待っても浮き上がる気配はなかったので、私はようやく疲労に負けた。

「なっちゃん、昨日はごめんね。ママ、なっちゃんのこと嫌いになんかなってないからね」
「なつも、うるさくしてごめんなさい。ピーちゃんは、お空へ行っちゃったんだもんね」
 私はお弁当を作って夏子を起こすと、真っ先に謝った。そして夏子と仲直りした。勿論、夏子が浮いていたなんてこと、彼女には言わなかった。

 だけど、生き物が死んでしまったらお空に行くなんてフレーズ、夏子に教えた覚えないんだけど、なんて疑問に思いながらも、夏子を幼稚園に送り届けて家事をして、夏子が帰ってきてご飯を食べてお風呂に入って絵本を読んで二人で寝ていると、再び夏子が宙に浮く。

「え、また!?」驚く私は、ふと窓の方に目をやった。夏子を寝かしつけてから消そうと思っていた居間の電気が点けっぱなしで、襖の隙間から薄く差し込む光が、夏子の影をカーテンに映し出す。
 
 ーーなんとその影に、羽が生えていたのだ。

 私は瞬間的に、つい先日亡くなったピーちゃんのことを思い出して、ピーちゃんが夏子をあの世へと連れ去ろうとしてるのだと結びつけてしまう。
「ピーちゃん! 夏子を連れてっちゃ駄目!」
 そう言って私は、抱きしめる形で夏子を胸に寄せ、彼女に覆い被さってベッドに伏した。
「ママ、どうしたの? 怖い夢でも見たの?」
 すっかり起きてしまった夏子は、私の胸で心配そうな声を上げた。
「そうなの。変な夢見ちゃって、なっちゃんに抱きついちゃった」
 私は現状をごまかして、夏子から離れようとすると、彼女は言った。
「パパとは仲直りしないの?」
「えっ?」
「なつもママと仲直りできたから、ママもパパと仲直りできると思うの」
「なっちゃん……」
「ピーちゃんも、そう言ってたよ」

 そうなのだ。私は旦那と些細なことで喧嘩をして、彼は数日前に家を出て行ってしまった。
 どちらかが謝ればすぐに終わる話のはずなのに、生来頑固者である二人は、仲直りするタイミングをすっかり見失っていたのだ。

 ーーもしかしたら夏子の元に訪れた不思議な出来事は、夫婦の喧嘩とピーちゃんの死が重なって、ストレスが爆発して引き起こした超常現象なのかもしれない。あるいは、夏子は夢のなかでピーちゃんに、パパとママのことを相談しに行っていたのかもしれない。

 それで私は旦那に素直に謝って帰ってきてもらって、前みたいに三人、川の字になってベッドに寝転がる。

「パパもママも手つなご」
 夏子がそう言うもんだから私は夏子の左手を右手で握り、パパが夏子の右手を左手で握った。

 私たちは家族で、喧嘩しても素直に謝れば、簡単に仲直りできる。
 そんな風にすれば、笑って生きていけることを、まだ幼い娘に教わった気がした。

 ーー私たちが夏子の手をぎゅっと握る限り、この子が宙に浮くことはもうないのだろう。

 ピーちゃんと天国で遊ぶのは、もうちょっと後にしようね。
 今は今を、私たちと生きていこうね。
 そう夏子に心のなかで呟くと、私は二人の寝息を聞きながら、ゆっくり瞼を閉じた。


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