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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
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そらよりとおくで君はふりむく

18/05/02 コンテスト(テーマ):第156回 時空モノガタリ文学賞 【 浮遊 】 コメント:2件 クナリ 閲覧数:412

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 ある日の放課後、俺は同級生の姫宮に、高校の空き教室へ呼び出された。本当は俺は、この時間は期末試験の追試だったのだが。
「柴田君。私、君に告白したいことがあるの」
「えっ」
 俺は心底驚いた。
 俺も姫宮のことが好きだった。高校に入ってからの一年間、ずっと。
「実はね。私、手で触れた物体を浮遊させることができるの」
 そう言った姫宮の手のひらの上方で、シャープペンが空中にゆらゆら揺れている。
「……へえ」
「そして、来週、巨大隕石が地球に激突するんだけど」
「え、それって、ギリギリかわせて地球には影響がないってニュースで」
「それは、もうどうしようもないから国連が流した、パニックを防ぐための嘘。ミサイルで破壊したり、軌道を逸らすこともできないんだって。でも、唯一打てる手があるの」
「はあ」
「私が隕石を空中で受け止めて、浮遊させるのよ」
「それは……凄いな」
「問題は、私の浮遊能力は一ヶ月くらいしか持たないこと。それが過ぎれば、隕石はまた落ちちゃうのね」
「そうなるな」
「そこで、私が隕石を、地球レベルではなく宇宙レベルで浮遊させるの。そうすると隕石は地球の座標に左右されずに、宇宙空間に浮遊することになる。地球の公転の速度は時速十万qだから、すぐに隕石から離脱できるでしょう」
 姫宮は腰に手を当てて胸を張った。
「うん……できるな。でも、それで姫宮はどうなるんだ?」
「私はたぶんそんなに器用に離脱できないから、隕石と一緒に宇宙に行く」
「……それって……!?」
「生還なんてできっこないから、あえて生身で行くの。宇宙に出たら、隕石は太陽の重力や慣性からも解放されてるから、私が思い切り太陽と逆方向に蹴飛ばして追放する。そのまま窒息を待つのは嫌だから、酸素0%の空気ボンベを持っていって一気に吸って、気絶する作戦だよ。寝てる間に死ぬと思う」
「そんな……ばかな」
「その後は、宇宙の藻屑か、太陽で消し炭かな」
 俺は絶句した。告白は告白でも、思ってもいなかった内容だった。
 気がつけば、俺は泣いていた。
「姫宮。俺は……君が好きなんだ」
「え!?」
「ごめん。こんな時に、こんなこと。姫宮は大変だってのに」
 姫宮は狼狽してのけぞっていたが、体勢を戻すと、咳払いした。
「ううん。むしろ、これからが本当の告白だったから」
「まだあるのか。なんだ、何でも言ってくれ」
「柴田君、好きです」

 俺たちは一週間の間に、色んなところへ遊びに行った。
 面白そうな場所を見つけては足を運び、学校も完全にサボって、行きたいところへ行って、やりたいことをやった。
 どちらかといえば優等生の姫宮は、時に目を回しながら、今までに足を運んだこともないようなレジャースポットで大はしゃぎした。
 しかし、俺たちのやりたいことを全てやり尽くすには、一週間はあまりにも短かった。



 次の月曜日。
 姫宮は、大気圏に自らを浮遊させて隕石を迎え撃った。
 端から端が見えないくらいに接近した巨大隕石のド迫力を、今でも鮮明に覚えている。
 それが空中でいきなり消失した。時速十万qの地球に、宇宙へ置き去りにされたのだ。
 姫宮と共に。



 更にその一週間後。俺は姫宮と一緒に、真昼の海辺にいた。
 一面に広がる海。その上に、更に遥かに巨大な空。あの向こうに宇宙がある。
「私の体、まだ宇宙漂ってるかな」
「かもな」
「柴田君に、クローン作成能力があったなんて。NASAの人も凄くびっくりしてたね」
 そう。まさにその能力で、俺は二週間前の放課後に自分のクローンを作り、追試を受けながら姫宮の告白を受けていたのだ。
 本来は、俺の能力によるクローンはまた本体に統合できる。そして、記憶も体験も全て引き継げるのだ。クローンの体が宇宙空間になんて行ってなければ。
「ベストの方法だとは思ってない。俺はむざむざ……」
「でも、ここにいる私と、地球は守ってくれたよ」
「姫宮。俺は、もう一人の君を」
「もう一人の私は、君に本当に感謝してたよ。ありがとう」
 姫宮が一人、俺のせいで死んだ。
 無論、それはあくまでクローンだ。そうしなければ本物の姫宮はおろか、地球が滅びていた。
 そう、本物の姫宮はここにいる。なのに涙が止まらなかった。

 宇宙の姫宮は、どんな気持ちだったろう。
 地球から渡された、最後の手土産の空気ボンベ。楽に死ぬための贈り物。
 それを吸う直前、振り返って、見ただろうか。
 時速十万qで去っていく、俺と姫宮を乗せた地球を……。

 波打ち際で、潮に足を洗われながら泣く俺の肩を、姫宮が抱いた。それは逆だよ、姫宮。
「ごめんなさい、柴田君。ごめんね」
 同じ言葉を、俺は胸中で姫宮に叫んだ。
 真昼の太陽は眩しくて、一点の影もなく地球を照らしていた。


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このストーリーに関するコメント

18/05/03 いっき

とてもスケールの大きい作品でしたが、人間の強さや登場人物の切なさも伝わってくる、素敵な作品でした。地球の為に自らを犠牲にする決意のできる彼女が魅力的で、かの決意をした主人公の強さにも感動しました。

18/05/05 クナリ

いっきさん>
構成に腐心したので、ありがたいです!
変な話ですが、私なりのテーマを込めて書いた作品なので、楽しんでいただけたら嬉しいです。

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