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その思いにどうこたえる

18/04/30 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 kanza 閲覧数:195

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 賑やかな居酒屋の中で、このテーブルだけが異質な空間になっている。向いの席に座る莉子とは従妹どうしなのだが、少ない会話と重い空気で別れ話でもしているカップルとでも思われているのかもしれない。
 突然携帯に着信があり、飲まないかと誘われたのが昼休みのことである。それから嫌な胸騒ぎは続いていた。久しぶりに東京にでて来たから誘ったのだというが……俺は大学進学とともに地元を離れ、その後も東京の企業に就職していた。一方彼女は大学卒業後、地元に戻り市役所勤めをしている。だから、正月に親戚が集まる時に顔を合わせるくらいだ。その時でさえ、なぜだか避けられている気がしていた。
 アサリの酒蒸しを口にした彼女は、殻を投げ捨てるように空いている皿へと放り、
「貝塚って、古代のゴミ捨て場なんだって」
 視線を向けてくることなく唐突に口を開き、ジョッキを傾けた。
 俺は、へえ、と言葉を返し、今日一度も視線を合わせない彼女の心中を探りながら、次の言葉を待った。
「殻だけでなく、割れた土器なんかも捨てられたらしいよ」
 彼女の言葉に、頭の中にはある光景が浮かんでいた。
 小学生の頃、莉子と遊んでいた時のことだ。お互い家も近く、年も2つ違いと近かったので昔はよく遊んでいた。自転車で駅の反対側にある雑木林に虫とりや探検しに行っていた。そこで秘密基地を作り、それを守るためといって、周りに落とし穴を作ろうと掘っている時に、貝殻と土器の破片らしきものを見つけたことがあった。

 ふと、ジョッキに伸ばした自分の手が震えているのに気付き、慌てて引っこめた。幸い彼女の視線は手にしているアサリへと向かい、そぎ取るように箸を動かしている。
 気持ちを落ち着かせようと、ゆっくり息を吐き出していると、彼女の声が耳に届いてきた。
「どこかの貝塚では骨が――」
 思わず莉子を見つめてしまっていたのだろう。視線が合わさった。だが、彼女の視線は流れるように通りすぎ、もうひとつアサリを手にとり、「犬の骨とかがあったらしいよ」
 呼吸がやけに苦しい。まるでじわりと首を締めつけられているかのようだ。
 脳裏には13年前、20歳だったあの時のことが鮮明に蘇っている。

 急にパスポートが必要になり、ボロの安中古車を飛ばして実家へと取りに帰った。パスポートだけ手にして、夕飯の残りがあるという母の声を背に、すぐにその場を後にした。
 駅前から幹線道路に向かう道は帰宅時で混んでいるので、線路を越えて反対側に回り、裏道を使って幹線道路を目指す。車がやっとすれ違える程度の狭い道で、しかも雨でより走りにくい道となっている。だが、そこは小さい頃からよく通っている慣れた道、なんの問題もない……はずだった。

 フロントガラスに突然映り込んできた影の残像が脳裏をかけ巡る。衝撃が。鈍い音が。
「ちょっとごめん、トイレ行ってくる」
 そう告げて、足早にトイレへと向かった。
 鏡の前に立つと、青ざめた顔が目の前にある。
 あの日から正月でさえ、なんだかんだと理由をつけて地元には帰らなくなった。それでも29歳で結婚してからは正月には帰るようになり、子どもができてからは実家に足を運ぶ回数も増えていった。そこには年月の経過という大きな要素もある。だが今もまだ地元にいる間はどこか緊張している自分がいた。

 席に戻ると、目に映る光景に言葉を失ってしまう。
 貝の殻が積まれた横に骨がある。
 思わず息を飲み込む。
 手羽先の骨だとすぐに分かった。それでも体が震えだしそうだ。莉子へと視線を移せば、彼女の目も皿に向かっている。
 何を……何を知っている。
 あの時、俺が20歳ということは、莉子は18歳、高校生だったはずだ。受験生……塾か。
 進学塾は隣町にしかなく、俺も高校生の時は自転車で通っていた。高3の追い込み時は夜遅くまで自習室に残っていた。そして、雑木林横の道は近道としていつも使っていた。

「お前、もしかしてあの時……」
 吐息のように言葉がもれる。
「今度さ」莉子は皿を見つめたまま言葉を続ける。「市と民間が協力して、駅の北口(反対側)を開発することになったんだよね」
 雨の中、ずぶ濡れになりながら、重い荷物を背負って雑木林に入っていく姿が浮かんでくる。貝塚へとゴミを投げ捨て、無我夢中で土をかく姿が浮かんでくる。
「たかちゃん」
 優しげな声に顔を向けると、今日初めて視線が重なった。莉子は立ち上がり、荷物を手にすると、
「あそこに貝塚があったことが分かると、市は大規模な発掘調査をすることになると思う」
 まっすぐな視線が向かってくる。その目がみるみる潤んでいく。
 莉子は目元をそっと拭うと、何も言わないまま立ち去っていった。

 目の前には貝殻と骨がのった皿がある。
――どうすべきなんだ。
 繰り返し自分に問い続けた。


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