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柳川穂太郎さん

命の残り香が降る夜に、僕は死の季節と出会った。

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有効活用

18/04/30 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:1件 柳川穂太郎 閲覧数:312

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 ゴミを拾った。そいつは確かに息をしている。

 昨今のペットブームとやらは末恐ろしいものがある。テレビはそいつらの可愛いところばかりに着目し、癒し効果だの飼いやすいだの家庭に彩が持てるだのと利点ばかり宣うせいで、肝心の欠点に目を向けてから家に連れ帰る者はうんと少ない。
 曲がりなりにも生命を預かり家族の一員となるのに、一時の欲に乗せられて気軽に買って帰って飼うのである。
 それは子供を軽率に産み落とす子供にも似ている。後々のことはその場面になってから考えればいい、と思考を切り落としてしまうのだ。命を育むには、己の時間も、体力も、お金も、精神も必要なのに。
 擦り切れて擦り切れて、悪いところが見えてきて、ああこんなはずじゃなかったのに、可愛くなどないじゃないかと唇を尖らせて、飽きたら捨てる。そしてその手の輩は、決まって次のブームが来たらそれに手を出して流行の波に溺れていく。

「よーしよし、おいで」

 つい、と手のひらを差し伸べるとゴミはぷるぷると震えていた。黒ごまのような小さな瞳は二対あり、四つとも涙に濡れている。
 以前の飼い主に何をされたのかを、俺は知らない。知る必要も無い。ただ、そいつの身体に真新しい傷があることからどことなく予想がつくのも事実ではある。

「まずは体を洗おうな。大丈夫、怖くないから」

 生きていながら捨てられるこいつらは、ゴミと何ら変わらない。
 逃げ出そうとするそいつを片手で鷲づかんで、浴槽へと足を踏み入れた。ぬるま湯に浸けながら泥や血で汚れた毛を揉みほぐしていると、本人なりの決死の抵抗なのか小さな脚で懸命に引っ掻こうともがいている。
 けれども、こいつらは飼育しやすいよう品種改良された、いわば人にとっては無力でちっぽけな存在なので正直羽毛で薄皮を撫でられている気分にしかなれない。
 ちゃぷちゃぷと水音が反響する中、ある程度汚れを落としたことを確認すると俺は立ち上がり浴室を後にした。柔らかいタオルを手に取り、そいつを包んで水気を拭ってやる。
 ぴゅう、とか細く鳴いていた。心無しか抵抗感がないようにも見受けられる。それは疲れからか、安堵しつつあるからなのかは知らないけれど。

「さて、次は飯だ」

 ある程度乾いたそいつを床に置くと、興味深げに辺りを見渡しているのが確認できた。四つの眼をきょろきょろと動かして状況を把握しようとしている様は、ゴミでありながら一個体としてしかと生きんとする生命の力強さを感じる。
 そんな姿がなんだか意地らしくて、ふと笑みがこぼれた。

「ほら、食べな」

 床に三つの胡桃を置いてやる。もちろん殻は剥いたものだ。力のないこいつらは、中の実を齧ることは出来ど皮を砕けはしない。
 人の手を借りねば決して生きていくことは出来ない姿を眺めていると、ぼんやりとカイコガを思い出す。あれらも人の手によって、人なしでは生きていけない身体にされてしまったのだし。まあ似たようなものであろうと思う。
 そいつは胡桃を見た途端目を輝かせ、ぱっと飛びかかり口いっぱいにそれを頬張った。カリカリ、と実が齧られる音が聞こえる。食への食いつき具合を見るに、きっともう何日も腹を空かせていたのだろう。何にせよかわいそうなことだ。
 ゴミにだって利用価値はあるのにな。

「美味いか?」

 なんとなく話しかけてやったが、そいつは俺の言葉を聞くこともなく一所懸命に腹へと胡桃を収めている。大層美味そうに食らうものだから、微笑ましさすら抱けた。

「じゃ、お前も飯にするか」

 俺の声を最後に、そいつはほんの瞬きの間に行方を消した。そいつがいた場所には、腹を丸く膨らませた愛しいペットの姿が映し出されている。
 ぺろりと舌なめずりをする様は何度見たって愛くるしい。

「ゴミはリサイクルしないとな」

 


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このストーリーに関するコメント

18/05/02 糸白澪子

拝読いたしました。
一番最後のセリフを読んで、ようやくタイトルの意味がわかって、なるほど、ちょっとゾッとしました。
しかし、目が4つあるペットって、どんな生き物なのでしょう……なんだか不思議で、でもそこが魅力的でもあります。
とっても面白い物語、ありがとうございます。

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