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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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日替わりじいちゃん

18/04/29 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:427

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 幼い頃に両親を亡くした私は、ずっとじいちゃんと二人暮らしをしていた。大病もせずに健康そのものだったじいちゃんは、ある日ぽっくりと亡くなってしまった。
 葬儀を終えてちゃぶ台に突っ伏して泣いていると『泣くんじゃない』と声がした。
『孫娘が気がかりでこの世を去り損ねたわい』
 ちゃぶ台から聞こえてきたのはじいちゃんの声だった。じいちゃんは家の中の物に憑りついて、この世に居残ってしまったのだった。

「じいちゃん、おはよう」
 朝起きると私は家全体に向かって声をかける。じいちゃんの魂は不安定で一つの物に固着できず、憑りつく対象が毎日変わってしまうからだ。声をかけると『今日は箪笥だ』とか『急須になっちまった』と教えてくれる。
 今日も『わしはこれだ』と返事があった。今日のじいちゃんは椅子のようだ。
「ねえ、じいちゃん。人なら一人と数えるじゃない? 神様だったら一柱だよね。魂はどう数えるのかな?」
 今のじいちゃんの数え方は何だろう。
『今は椅子だから一脚じゃないか』
 じいちゃんが一脚。不思議な数え方だ。けれど明日にはまた違う物になっているのだろう。
「テレビになったら?」
『わしが一台』
 あらゆる物に入り、これまでと同じように私と暮らしてくれるんだわ――と考え、ある事に気付いた。
『どうした?』
 気付いた事実に愕然とし、問いかけに応えられない。
 ――家の中の物には限りがある――。
 時計になって本になって鏡になって、毎日魂の容れ物が変われば近い内に入る先が無くなってしまう。
「どうしよう……」
 焦燥感に襲われた。家の中の物を増やさなくては。
 ――この日から、私の心をそればかりが占めるようになった。

『もうゴミを集めるのはやめるんだ』
 今日のじいちゃんは額縁。壁の高さ半分近くを埋めるようになった色々な物の中から、額縁が話しかけてくる。
「ゴミじゃないわ」
 じいちゃんは同じ物に二度は入れない。冷蔵庫や灰皿や時計など、色々入り尽くしてしまったから代わりはどうしても必要になる。
 私は毎日物を拾っては家に詰め込んだ。もう寝室にも台所にも生活するスペースはない。溢れる物の上で横になりその中で目を覚ます。そして毎朝「じいちゃんどこ?」と叫ぶのだ。ここだ、という声を頼りに寝床を掘ってじいちゃんを探す。返事がどこか哀しげでも、もうこの生活を変えることは出来ない。
 私の家はゴミ屋敷として近所から認識されるようになった。
 汚くなんてないわ、と私は歯噛みする。物が多いだけだし綺麗にしてから家に運んでいる。虫だっていないはず。私はただじいちゃんと暮らしていたいだけ。
『わしの我儘だったんだ。すまない……もうやめよう』
 数十個目の目覚まし時計に入ったじいちゃんが言った。嫌よ、と私は答える。
 じいちゃんは大往生するその時まで、病に倒れることも怪我をすることもなく私と生きてくれた。じいちゃんがこの世に居続けられるように今度は私が守るから、そんなこと言わずにそばにいて。
 私は物を集めることをやめない。

 家に火が点けられたのは深夜のことだった。暑い夏の夜で、それで火の熱さに気付くのが遅れた。目を覚ませばもう、周りは火に囲まれていた。
「あ――あ、じいちゃん! じいちゃん!」
 叫んであちこちを掘り返す。じいちゃんが燃えてしまうじいちゃんが消えてしまう。出てくるのはじいちゃんが入ったことのある物ばかりで、どこからも返事が聞こえない。
「じいちゃんどこ? どこなの!?」
 泣きながらゴミを掻き分ける。物の溢れる狭い空間はすぐに煙で満たされた。放火されたのだという事実に打ちのめされる。
 近所の人達に疎んじられていることは知っていた。頭のおかしい女がゴミを溜めこんでいると思われていただろう。
 私自身、本当は自分が狂っているのかもしれないと疑っていた。家族を亡くしたショックで幻聴を聞いているのかもしれないと。毎日自分の正気を疑いながら、それでもじいちゃんの声を聞けばやっぱり本当にいると信じられた。
 けれどそうして時を過ごした結果が放火に遭うという現実。
 死ねばじいちゃんと一緒に行けるかな……と意識を手放そうとした。
『――そうはいくか』
 力強い声が響いた。
 布団が動く。下敷きになっている色々な物が蠢いて私を運び、水を含んだ毛布が私を包んだ。
 玄関の外に運び出される頃には、私は毛布ごと半透明な人の腕に抱えられていた。
「……じいちゃん」
 じいちゃんは笑う。
『孫を守れずして爺を名乗れるか』
 謝りたかったしお礼を言いたかった。迷惑をかけた人達に謝罪をしたかった。その全てを伝えたかったけれど、笑顔で止められる。
『本当はとっくに死んでいたものな』
 名残惜しいなぁとぼやき、じいちゃんは笑ったまま、今度こそ消えてしまった。


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