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18/04/28 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 つつい つつ 閲覧数:261

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 ここで働く現場の作業員はみな暗い目をしている。管理をしている本社の人間はみな冷たい目をしている。ただ、僕だけはここが好きだから、ここが温かいから、そんな目をしていると思う。
 毎朝七時半に食堂に行く。朝食は和食でも洋食でもフルーツでもシリアルでも、なんでも揃っているし、どれを食べても、どれだけ食べてもタダだ。僕はだいたいご飯にお味噌汁と卵焼きにおひたしなんかを食べる。同じ第五ブロックで働く人達も顔を合わせるけど、会釈くらいでほとんど話をしない。それは、第五ブロックの人達があまり社交的じゃないわけではなく、ここで働いている人達がだいたいそうだ。プライベートの事など誰も語らず仕事上の必要最低限な会話しかしない。そして、いつの間にかいなくなる。僕はここで働き出して三年になるけど、もう長いほうだった。
 宇宙服みたいな防護服に着替えると専用のゲートをくぐり、第五ブロックの入り口に集まる。もし、防護服に穴が空いていたり、少しでも傷がついていたりするとブザーが鳴り教えてくれる。本社の人は防護服を着ていたら安心なんて言うけど誰も信用していなくて、極まれに作業員同士で雑談なんてすると、「第七ブロックの奴が血を吐いて倒れた」とか、「ここで働いて五年生きた奴はいない」なんてことが真しやかに囁かれていた。五年しか生きられないなら、僕はもうそろそろ危ないな、なんて思わずふきだしそうになる。でも、本社の人が建物内部のエリアに入るときは宇宙服どころか南極でも探検出来そうな程ご大層な服を着て、厳重な装備をまとっているのを見ると案外本当なのかもしれない。
 ここは産業廃棄物のゴミ処理場だ。世界で数カ所もない特殊なゴミを取り扱っているって噂だから、どうせ核廃棄物でも処理してるんだろう。僕たちはブロックごとにドラム缶みたいなものに処理されたゴミをカートに乗せて工場内部まで運んでいる。全てシステム化されているので重いものを持つわけでもなく、ただ工場内をゴミを乗せて何回も運ぶだけの簡単な仕事だ。なのに、世間から見たらばかみたいに高額な給料を貰っている。だからここで働く作業員はみなわけありだ。借金をしていたり、前科があったり、騙されたり、好きで働く奴なんて誰もいなかった。僕以外は。
 ここで働く前はひきこもりだった。中学一年生の時、田舎から都会に引っ越して都会の学校に通ったけど、田舎育ちの僕には肌が合わず、みんなにからかわれて一ヶ月で学校に行かなくなった。一つ上の兄ちゃんはちゃんと中学卒業まで通っていたけど、卒業式の日に学校から飛び降りて死んだ。たぶんどんなつらいめにあっても必死で学校に通ったのだろうけど、僕はほとんど顔を合わさなかったかったから、よくわからなかった。お葬式の日、母さんが兄ちゃんをちゃんと送りだしてあげようって泣きながら言ってたけど、それでも自分の部屋を出なかった。
 そんな母さんも僕が18才の時に死んだ。父さんがお酒に酔って暴れて母さんを殺した。その頃はよく父さんが酔って怒鳴り散らしていたけど、部屋を出ない僕には全く関係なかった。だけど、母さんが死んで父さんが捕まり警察の人が家にはびこるようになると、さすがに僕も部屋を出ないわけにはいかなくなった。待っていても誰もご飯を持ってきてくれないし、警察もひきこもりだからといって、そっとしておいてくれるはずもなかった。
 ギャンブルとお酒に狂っていた父さんは「金はあるんだから、みんな楽しんで暮らせばいいだろう」とわめき、「お前等みんな辛気くさい顔ばっかりしやがって」と僕を汚いものでも見るような目で見ながら警察に連れていかれた。その時、久しぶりに父さんの顔を見た。だけど、一瞬のことだったから結局その顔もすぐに忘れてしまった。父さんどころか母さんも兄ちゃんも都会に出て来てからの顔は全然思い出せなかった。それからひとりになった僕は今の職場を調べて働くようになった。
 仕事が終わり食事を済ませると社員寮に戻った。部屋は広く快適で空調もTVもネットも環境は全て整っていた。だけど僕はTVも付けず、音楽も流さず、ネットやゲームをすることもなく、ただベットに寝そべるだけだった。時々ベランダに出て外を眺めたけど、広大な敷地にゴミ処理場の施設群が見えるだけだった。
 都会に出る前、僕らは田舎で細々と暮らしていた。お金なんてなくて贅沢なんて何も出来なかったけど、みんな笑っていた。でも、巨大な産業施設が出来ることになり、僕らは莫大な立ち退き料と共に都会に引っ越した。
 電気を消して、目を閉じるとヒュウヒュウと風の音がした。あの頃と同じ風の音だ。またヒュウヒュウと音が聞こえた。みんなの顔が浮かんだ。


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