1. トップページ
  2. 見ろ、ゴミが人のようだ!

若早称平さん

これからも精進していきます。 コメントなどいただければとても励みになります! よろしくお願いします。 Twitter @1682hoheto8D

性別 男性
将来の夢 小説で食べていければそれが最高です。
座右の銘 春風秋雨

投稿済みの作品

1

見ろ、ゴミが人のようだ!

18/04/27 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:298

この作品を評価する

 それを最初に発見したのはこのゴミ処理場で集積されたゴミを焼却炉に移す作業を担当していた高山だ。彼はここでバイトをしながら映画監督を目指し勉強中だった。昨夜も遅くまで課題である自主映画の編集作業を行っていて、その疲れから幻覚が見えたのではないかと両目をゴシゴシと擦ってみたが、目の前の光景は変わらなかった。
 しばらく呆然と立ち尽くしたあとで、ようやく上司に連絡するに思い至った高山は目を逸らさないようにしながら電話をかけた。
「高山か、どうした?」
 電話に出たのはの彼の上司である生田だった。彼は最近知り合ったキャバ嬢に熱を上げていて、貯金が底を尽きつつあった。
「今焼却炉なのですが、ゴミが人のようになってるんです。ちょっと来てもらえませんか?」
「それはどういうことだ?」
「なんとも説明しにくいですが、見てもらえればわかると思います」
  高山の報告に生田は首をかしげた。紙コップのコーヒーを飲み干し、「ゴミが人のようになっている」様子を想像してみた。まさかゴミが人のように動き始めたわけではあるまい。もしも高山が「ここが目で、ここが口で……顔みたいに見えませんか?」などと言い出したら今年一番の激怒をお見舞いしようと決意して受話器を置いた。

「どうですか?」という高山の声が耳に入らない程に生田は衝撃を受けていた。二十年近くここで働いてきたが、こんなことは初めてだった。
「どうしますか?」
 少しニュアンスを変えた高山の問いにようやく我に返った生田は人のようなゴミに一歩近づいた。ポケットから携帯を取り出す。恐る恐る人のようなゴミに手を伸ばし、写真を撮ろうと試みた。
 その様子を見た高山は生田の携帯がまだガラケーであることに気が付いた。
「生田さん、僕のスマホで撮った方が綺麗に撮れますよ。それにズームを使えばそんなに近付かなくてもいいわけですし」
 生田は高山の持つ最新のスマホを一瞥しただけで、またすぐに人のようなゴミに手を伸ばした。この珍事をキャバ嬢に教え、気を引こうとしていることを高山に悟られてはいけない、そう思っていた。
「俺は所長に連絡してくるからな。こいつから目を離すなよ」
 高山が深く頷き、生田はその場からゆっくりと離れつつ携帯を操作した。

 ゴミ処理場の所長である松村は健康のため自宅から一時間かけて徒歩で通勤している。グラノーラとスムージーという意識の高いモデルのような朝食を続けているが、なかなか引っ込まない自身の腹を撫でていると胸ポケットに入れたスマホが振動した。
「どうした? なにかトラブルか?」
 出勤前に生田から電話がかかってくるのは初めてのことだった。良い報告であるはずがない。松村は落ち着いて話を聞こうとそばのコンビニの壁に背中を付けた。
「それがですね、今朝処分しようとしていたゴミが人みたいなんです」
「ゴミの中に人間が紛れていたということか?」
 松村は壁にピタリと付けた背中が冷たくなるのを感じた。昨晩観た刑事ドラマでゴミ捨て場から発見された死体の映像が脳内でフラッシュバックされる。スマホを持つ手に力が入った。
「そうではないんです。そうではなくて、あくまでゴミなんですけど、それが人みたいなのです」
 松村は安堵するとともに首を捻る。
「言っている意味がわからないんだが」
「お気持ちはわかります。私もバイトの高山から報告を受けた時にはそうでした。しかし見てもらえればわかります。ゴミが人のようになってるんです」
 松村は想像しうる状況を思いついては生田に尋ねたがその全てが否定された。そして二言目には「見ればわかる」を繰り返す。受話器の向こうの生田にも聞こえるような溜め息がこぼれ、仕方なく松村は壁から背中を離した。少し小走りになる。これはこれで健康にいいかもしれない。そう思った。

 松村への報告を終えた生田が高山の元へ戻ると彼はあごに手を当てて思案していた。生田が戻ってきたのを見つけると小走りに駆け寄る。
「僕はこれ処分してしまった方がいいと思うんです。なんていうか、よくないもののような気がして」
「よくないもの?」
「宇宙人とか、悪魔とか、未知のウイルスとか」
 これを見る前の自分だったら鼻で笑っていたであろう推測を高山は真顔で口にした。それに生田も真顔で頷く。
「とにかく所長の到着を待とう」
 生田の携帯が鳴った。「所長からですか?」と尋ねる高山に首を振る。キャバ嬢からの返信だった。『え、意味わかんないんだけど。なんでゴミの写メ送ってきたの?』
 やはり写真では伝わらないのか、と生田は頭を掻いた。実際に見てもらえればわかるのだが、と唇を噛む。
「なんだこれは、ゴミが人のようじゃないか」
 振り返るといつの間にか松村がいた。初めてこれを見た生田と同じ表情をして。そう、見てもらえればわかるのだ。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン