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荒木成生さん

はじめまして、こんにちは、荒木成生です。 二千字をオーバーした時の推敲作業に苦労しています。 説明不足になりがちですが、そこは想像力で補ってください。 二千字よりも長いものは小説投稿サイト『アットノベルス』に置いてありますので、興味があればこちらもよろしくお願いします。 ペンネームは同じです。

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ムーンサルトパフェ

12/12/29 コンテスト(テーマ):【 喫茶店 】 コメント:1件 荒木成生 閲覧数:1843

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 シャトルで月に向かう。
 シャトルといっても地球上からではなく、軌道エレベーターの発着場から月面基地へと向かうシャトルだ。
 軌道エレベーターが完成したことにより、月の開発が現実のものになった……、大気圏という名の空と宇宙とを隔てる壁が無視できるようになり、月と地球との往復に掛かるコストが大幅に削減されたからだ。
 月面基地が完成し、資源の採掘と観光事業を行っているわけだが、ここで予想外の問題が生じた。
 それは精神に変調をきたしている者……、ホームシック患者と鬱傾向の患者の急激な増加だ。
 密閉され息苦しく感じる室内、地球の六分の一の重力……、環境の急激な変化が精神を蝕んでいく。
 そのため、急遽、専門の心理カウンセラーの増員が決まり、そのメンバーに俺が選ばれた……、というか、独身で若い者にお鉢が回ってきただけなんだけどね。
 基地に到着し、診療を開始したのだが、すぐに予約が一杯になってしまった……、かなり深刻だ。
 この仕事、患者の病んだ精神を相手にするのだが、長時間行うとこちらの精神もかなり参ってくる……、ほどよく休憩を入れるのが、患者にとっても医者にとっても大切になる。
 そこで、一区切り付いたところで、気分転換も兼ねて、ちょっと気になるお店に足を運んだ。
 そこは観光客向けの喫茶店で、あるサービスが人気で評判となっている。
 席に着き注文する……、飲み物はコーヒーメニューの中からルナブレンド……、それからデザートにムーンサルトパフェ……、このパフェがこの店の売りだ。
 しばし待つ……、と、注文の品を持って女性店員がやってきた。
 店員が駆け足でやってくる……、どんどん近づいてくる……、そのままくるりと反転しこちらに背を向け、助走の勢いそのままに跳びあがる。もちろんパフェは持ったままだ。
 ムーンサルトパフェを注文するとムーンサルト、いわゆる月面宙返りで届けてくれる……、その際、ちょっとでもパフェがこぼれたら無料となるのがこの店のサービスだ。
 店員はこぼれないようパフェを回転軸の中心近くとなるように抱えている……、ムーンサルトなら後方二回宙返り一回ひねり。
 伸身で宙返りが一回……、二回……、三回目? 多くないか?
 後方に二回転半回ってるぞ……、これでは頭とパフェが下向きに……、しかも予想着地点が俺の現在地じゃないか?
「きゃー!」
 店員の叫びが店内にこだまする。店員も現状を把握したらしい……、このままではムーンサルトプレスになるということを。とりあえずパフェが放棄された。そうしないとパフェを入れる器が鈍い器へと変じてしまう。
 こちらはどうする? かわすべきか? 受け止めるべきか? このままでは彼女がこぼれてしまう。
 店員の体重はどんなに重く見積もっても地球上で六十キロはない……、月なら十キロ以下……、ここはもう万有引力のニュートン先生を信じるしかない!
「……」
 衝撃に備えて歯を食いしばる……、が、思ったほどの衝撃はない……、物理的には。
 それよりも精神的にやられてしまった……、彼女が想像以上に軽く、想像以上に柔らかく、想像以上にかわいらしく思えてしまったからだ。
 なんだろう、この感じ……、吊り橋効果か? それとも月の魔力か?
 不思議なことに、跳んだり跳ねたりするよりも女性を抱きかかえた方が月の重力を感じ取れるような気がした。
「あ、あのー、ありがとうございました」
 彼女に言われてようやく気づく……、ずっと抱きしめていたことに。
「す、すいません」
 俺は慌てて彼女を下へと降ろす。
 ムーンサルト失敗の恥ずかしさか、長時間抱きしめられたことへの恥ずかしさか……、彼女の顔には、はにかむような、どぎまぎするような、そんな表情がうかがえる。
 このことがきっかけとなって、私は彼女と付き合うことになり、さらにはカウンセリング方針を見出すことができた。
 一方その頃、放り捨てられたムーンサルトパフェはこぼれることなく優美な放物線を描き、華麗に着地を決めていた。

 後日、女性を抱きかかえる男性の姿がちらほらと見られるようになった。
 男性は女性とのスキンシップとその軽さに驚くことで精神が高揚し、女性もまた自分の体を軽々と抱きかかえる男性にときめくことで精神が安定した……、これにより鬱症状の患者は健全な精神を取り戻すことができた。
 また、ホームシック患者は恋人ができることによって、家族と離れた生活に対する不安を打ち消すことができた。
 そして、月面での結婚を希望するカップルが急増した……、ちなみに私と彼女の結婚がムーンパレスでのムーンブライド第一号となった。


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このストーリーに関するコメント

13/01/02 草愛やし美

荒木成生さん、拝読しました。

とても面白い設定の喫茶店ですね。ムーンサルトでパフェが届く、見ものでしょうねえ、ぜひ一度試してみたいです。

でも、この喫茶店に勤務するウェイトレスさんは、技を習得するのが大変でしょう、上司はさしずめ、オリンピック体操選手だった方々なんでしょうね(笑)

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