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辻坂奈さん

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完璧に分別する男

18/04/25 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:1件 辻坂奈 閲覧数:454

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 戸建て3LDKの僕の家は、半分がゴミ箱でできている。
 ゴミ箱というと語弊がある。正しくは分別用のゴミ箱が幅をとっている≠セ。
「明日は月曜日だから『超薄型プラ』の日……まだ溜まってないな」
 僕はゴミ箱の中身を確認して独りごちた。
 ここのところ毎年ゴミの分別が数種類ずつ追加されている。先月は「厚型プラ」が「有色」と「無色」に細分化された。
 この二つに関しては、分別の最終チェックはまだ楽な方だ。無色に有色が混ざっていても視覚的に見つけやすいからだ。
 それよりも面倒くさいのは、見た目ではすぐに判断できないもの。たとえば成分の違う衣類だとか、油のついた可燃ゴミだとか、そういうものは全部分けなきゃいけない。
 僕一人であれば絶対にごちゃごちゃにして捨てたりしないのに……。
「ああもう!」
 テレビの横に置いてあった大きなゴミ箱からヨレヨレのTシャツを引っ張り出て、晒し首みたいに晒してやる。
「ここはポリ五〇%以上の衣類を集めてるんだって。蓋に書いてあるだろ? このTシャツは綿七〇%、つまりポリ五〇%以下だから隣のゴミ箱。さつき、いっつも衣類の分別間違えてるよ」
「そんな細かい分別、誰も守ってないって」
「そうやって守らない人が増えてめちゃくちゃになるから、どんどんルールが増えるんだよ」
「守れないルールなんて必要ある?」
 冷めた声で反論してくる妻は、壁に寄りかかってだるそうに爪を切っている。
 そういうだらしないところが僕は前からよくないと思っている。捨てる前にちょっと確認するだけじゃないか。どうしてその一手間を省きたがるんだ?
 悪くなる一方の地球環境に対して、自分にも何か行動できることがあるとなぜ思えないのだろうか?
「衣類だけじゃない、タグの紐だって紙とプラに分けてっていつも言ってるじゃないか。ああ、ほらやっぱり、一緒くたになってる!」
 犯人を見つけたように、僕は嬉々として洋服のタグを可燃ゴミの中から摘み上げた。紐の先にビーズみたいな、黒いプラスチックが付いている。
 これは「可燃ゴミ」じゃない。「厚型プラ・有色」だ。
「楽しい? 聡君」
「分別が楽しいわけないじゃないか。君がちゃんと分けないから――」
 ふぅん、とさつきは感情のない相槌を打って、つかつかと歩み寄ってきた。
 それから、洋服のタグを摘んでいた僕の手をぱちんと叩いた。
 驚いて固まる僕の目の前で、さつきは爪切りの中に溜まった爪を可燃ゴミ箱の中にバラバラと振り落とした。
「ああ! 爪は特定資源ゴミの有機物系だって! 可燃ゴミは何でも屋じゃないんだぞ!」
「じゃあ一生ゴミの分別でもやってれば!?」
 さつきは爪切りを壁に叩きつけて部屋を出て行ってしまった。跳ね返った爪切りはカンッと音を立てて「金属ゴミ」の箱に落ちる。
 僕は慌てて爪切りを拾い上げ、カバーのプラスチックを外す。
「……だから、金属とプラは分けてくれって」


 あれから二年。
 独り身になった僕は、3LDKの戸建てを持て余すことなく毎日を暮らしている。二年のうちに分別項目は細分化されて、更に八種類追加された。
 さつきの物が置いてあったところは八個のゴミ箱で綺麗に埋め尽くした。
 それにしても、こうも細分化してしまうと、なかなかゴミ箱がいっぱいにならない。
 最後にゴミを出したのはいつだっけ?
 そうだ、捨てるのは大抵さつきがやっていたんだ。
「あいつ、なんでもかんでもすぐに捨てたがってたからな……」
 今日も分別で忙しくなるに違いない。
 僕が完璧に分けなきゃ、一体誰がこんなに細かく分けると言うんだ?
 その時、チャイムが鳴った。僕はたくさんのゴミ箱に埋め尽くされた廊下を這って、玄関の扉を開けた。
 見たこともない男女が数人立っていた。好奇の目がちらちらと僕の背後を覗いている。
「あのー、突然すみません。ちょっと取材を行っておりまして。ゴミ屋敷≠フ特集なんですけど」


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このストーリーに関するコメント

18/04/29 文月めぐ

拝読いたしました。
ゴミと環境問題、切っても切り離せない関係ですよね。
あまりにも完璧に分別していることでゴミ屋敷になってしまった、というラストは捻りがあると感じました。

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