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かわ珠さん

自分の好きな作家さんの言葉のチョイス、並べ方、区切り方、リズム、テンポに少しでも近付けるような文章が書けるようになりたいです。

性別 男性
将来の夢 世界平和
座右の銘 愛は時空を超える

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ゴミ捨て場ランデブー

18/04/23 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 かわ珠 閲覧数:229

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 週に一度、僕は彼女と出会う。
 それはべつに、織姫と彦星のようにロマンティックな逢瀬ではない。
 週に一度の資源ゴミを出す日。その朝に、必ず彼女と出会うのだ。
 きっと、同じマンションの住人なのだろう。けれども、彼女がどの部屋に住んでいるのかまではわからないし、名前さえも知らない。顔をあわせても声を掛けたりはしない。ただ、お互いに小さく会釈を交わすだけ。わかるのは、彼女が近所の高校に通っているのだろう、ということくらいだ。
 彼女が姿を現すのは、決まって資源ゴミの日だ。家族の中で当番でも決まっているのだろう。雨の日も、雪の日も、彼女は欠かすことなく毎週必ず現れる。その真面目さを、僕はとても好ましいと思っていた。家の中では、もしかしたら小言を言いながら、嫌々ゴミを出しに来ているのかもしれない。それでも必ず休むことなく毎週この場所に来るその律義さが、とてもいい。その日になれば必ず彼女がその場に現れる、という安心感のようなものを、僕は感じていたのかもしれない。
 今日も彼女はいつも通り、片手にふたつのゴミ袋を持ってゴミ捨て場に現れた。そしていつも通り、互いに会釈を交わしてすれ違う。そうして、僕はそのまま職場へと向かう。きっと彼女も、そのまま高校へと向かうのだろう。
 今週も、いつもと変わらない生活のリズム。
 けれども、いつもと違う部分がひとつだけあった。いつもは髪を後ろに束ねたポニーテールの彼女だけれども、今日はその髪を下ろしていた。それだけで、まるで違う印象になる。
 ただ、高校生の女の子が髪形を変えるのはそう特別なことではないだろう。きっと、これも日常の中の一部に過ぎない。
 彼女は僕のことなんて、なんとも思ってはいないのだろうけれども、べつにそんなことはどうでもいい。想ってもらおうとも思わないし、そんな必要もない。
 ただ、来週も彼女がこの場に現れてくれればいいな、とは思う。
 そこに会話は無くても。きっと、僕は彼女と出会えることをささやかな楽しみにしているのだろう。
 僕は来週もまたきっと、彼女とここで出会うのだ。



 端的に言って、私は恋をしている。
 週に一度の資源ゴミの日に、ゴミ捨て場でいつも出会うスーツ姿の彼に。
 彼と会うために、毎週資源ゴミの日に自らゴミを捨てに行くのだ。できれば、全部のゴミ出しを私がしたいところなのだけれども、さすがにそこまでしてしまうと、あからさま過ぎて気付かれてしまうかもしれないから、自重している。恋は駆け引きが重要なのだと、聞いたことがあるから。
 いや、べつに彼との関係がどうこう、というのは正直あまり気にしていない。
 だって、相手は社会人だし、きっと高校生の私のことなんて気にも留めていないだろうから。
 私はただ、毎週必ず決まって彼と出会える場がある、ということだけで充分幸せだ。自ら彼に声を掛けて、今のこのリズムが崩れ去ってしまうことのほうが恐ろしい。
 玄関を出て、ゴミ捨て場の方を眺めながら、少し時間を潰す。どうやら、彼はまだ来ていないらしい。いつも、ゴミを出すときには少し早めに家を出て、彼が来るのを待っているのだ。我ながらストーカーじみている気がしないでもないけれども、週に一度だけの出会いのチャンスなのだ。これくらいは大目に見てほしい。
 そうしてしばらく待っていると、彼の姿が見えたので、慌ててゴミ捨て場へと向かう。
 そして、すれ違いざまに小さく会釈を交わす。
 週に一度、たった数秒だけの接触。
 それだけのことなのに、私の胸は高鳴り、幸福感に満ちている。
 バカみたい。と、自分で自分に呆れてしまうけれども、彼のことが好きなんだから仕方がない。この数秒の彼との出会いのおかげで、今日一日頑張れる気がする。
 今日はいつもと髪形を変えてみたんだけど、彼は気付いてくれただろうか。少しでも私に意識を向けてほしいけれども、うまくいったのだろうか。なんて、考えてしまう。少なくとも、学校に着くまではずっとこんなことを考えているのだろう。
 未だに彼とは一度も会話を交わしたことはないけれども。それでも私はこの場所での彼との出会いを楽しみにしている。
 私は来週もまたきっと、彼とここで出会うのだ。


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