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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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ユメひろい

18/04/15 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 浅月庵 閲覧数:654

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 今日も俺は都会の雑踏に溶け込みながら、かなりイラついている。その理由の一つとして、数日前から俺のことを尾行しているストーカーがいるからだ。

 ーーそして、この日とうとう俺は我慢の限界を迎えたのだ。
「お前一体、なんなんだよ!」
 ストーカーは小学生くらいの子どもだった。そんなガキに感情剥き出しとは、なんとも大人げない話だ。
「お兄ちゃん、自分の心臓の辺りを見てみて」
「はっ?」
 反射的に俺は、ガキの言葉通り首を曲げた。すると球体のような形の光が、今にも左胸から飛び出そうとしているのが、俺の瞳に映った。
「ぼくはね、そいつを“ひろう”のがお仕事なんだ」
「なにわけわかんねぇことを。一体コレはなんだよ!」
「お兄ちゃんはバンドマンだよね。今日もこれからメンバーと一緒に練習するために、スタジオへ向かってる最中だ」
「そこまで知ってんのかよ」
「でもお兄ちゃんさ、最近ユメを諦めようか悩んでるでしょ。東京で売れてやるんだって意気込んで上京してきたのに、全然結果が出ないもんだからさ」
 最近のストーカーは他人の心まで読めるのか? 俺の拭い切れないイライラの大本を、いとも簡単に当てやがった。
「お前、どうしてそれを」
「だからさ、もしお兄ちゃんがユメをすてるのなら、それをぼくがひろうの。もうすぐ落っことしそうな気配がしたから、後を尾けさせてもらってたよ」

 ーー昔から俺は音楽が好きだった。
 まぁ、興味を持ち始めたのは小学校で同じクラスだった古谷君也ってやつの影響だったんだけど。君也のとこは音楽一家で、部屋には大量のCDが棚に並べてあって、俺はよくそれを聞かせてもらいに自宅へ遊びに行っていた。
「ぼくさ、大人になったらバンド組んで、大きいとこでライブしてみたいんだ」
 君也は、小さな体に似合わない大きなギターを抱え、小さな指で弦を押さえながら言った。
「へぇ、良いユメじゃん。君也なら絶対なれるよ!」
 これだけ音楽が好きなんだ、それに環境にも恵まれている。俺は心の底から、君也なら有名なアーティストになれるんじゃないかと思っていた。
「じゃあさ、ぼくら一緒にバンド組もうよ」
「えぇ、急だな。ちょっと考えさせてよ」
 幼い頃の俺には、全然実感なんてなかったけど、君也の言葉を素直に嬉しく思っている自分がいた。

 だけど、その次の日の朝だった。
 登校中、古谷君也は交通事故に遭って亡くなった。俺は君也の誘いに中途半端な返事をしたまま、彼と永遠の別れを迎えてしまったのだ。

 ……なぜこの瞬間、俺の脳裏に当時の記憶がフラッシュバックしたのだろう。

「で、どうするの? そのユメは」
「ユメひろいっつーか、ゴミひろいだろ」
「えっ?」
「俺はなぁ、小学校のときに死んじまった古谷君也ってやつのユメを叶えてやりたくて、必死こいてここまで頑張ってきたんだよ」
 俺の怒りは沸点に達していた。こいつがこのユメを、不用品みたいに扱おうとしていることが、心底気に食わなかった。
「……」
「なのにお前は、俺がこのユメをすてちまったら、それをゴミ扱いして回収するって言うのか?」
「……それは誤解だよ。お兄ちゃんがそのユメを手放したら、これはまた別の人のユメになる」
「え?」
「誰かが成し遂げられなかったユメは、また別の誰かのユメになるんだ。そうやって、ユメはこの世界を循環し続けてるんだよ」
 なんだよ、そのメルヘンな話は。ていうことは、俺の胸に宿ったこのユメは、また別の誰かの想いだったとでも言うのか?

 いや、待てよーー。

「お前さ、」
「ぼくはね、お兄ちゃんがそのユメを諦めたとしても、それはそれで良いと思ってるんだ」
「え?」
「だけどさ、ユメは諦めてもいいけど」ガキの声が震えている。「音楽自体は嫌いにならないでよ」
 少年の今にも泣きそうな表情に、俺の頭は途端に冷静になった。

 そして、俺のなかに湧いた一つの予想が、一気に確信へと変わったのだ。
「はは、ばぁーか! 嫌いになってねぇよ」
「本当?」
「あぁ。それに、せっかく来てもらったところ悪いけど。俺やっぱりこのユメ、すてないでおくわ」
 そう言って俺は、胸の辺りで輝く光を、そっと握り締めた。
「そっかぁ。良かった。それならぼくはお役御免ってわけだね」
「お前に俺の亡骸はひろわせねーよ。ビッグになるとこ見とけ」
「ふふ、ダサいセリフ。でも、楽しみに待ってるよ」
 そう言うと少年は、幽霊みたいに瞬間で姿を消してしまったのだ。

「あいつ、エールのつもりか?」気づけば俺のなかに再び、音楽が好きな気持ちが沸々と湧き上がっているような気がした。「……でも、ありがとな。俺、もう少しだけ頑張ってみるよ」
 
 俺は古谷君也から託されて、もうすっかり俺のものになったユメを胸に押し込むと、再び前を向いて歩き出した。


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