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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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過去の言動はゴミとして捨てることはできないのだ

18/04/14 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:3件 文月めぐ 閲覧数:413

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 人生の中で後悔していること、誰にでも一つはあるだろう。私も、もちろんある。しかし、一番大きな後悔と言えば、やはり小学一年生のあの出来事だ。
 小学校に入り、すぐに仲良くなった友達の京子ちゃん、真央ちゃん、彩ちゃんとはいつも一緒にいた。
 私たちはおとなしい子どもたちの集団だった。真央ちゃんは絵が得意。彩ちゃんはピアノ、京子ちゃんは読書が好きだった。私は書道を習っていて、自慢できることがあるとすれば、字がきれいなことだった。
 クラスメイトは皆それぞれ仲の良い友達と集団をつくり、安全な鳥かごの中で過ごしているかのようだった。
 だけど、この一年四組には周りから浮いている子がいた。今でも名前をきちんと覚えているけれど、仮に「K」としておこう。
 Kは確実に嫌われていた。いつもぼろぼろの薄汚い服を着ていて、授業中には何かとわめくことがあって、男子から「うるさい!」と言われることもしばしばだった。
 「Kには母親がおらず、父親と二人暮らしらしい」
 その噂はすぐにクラス中に広まり、やがてKの耳にもその噂は飛び込んできたらしい。「そうだよ」とKはあっさり言った。「私、お母さん居ないから、料理も掃除も上手なんだよ」こうして自分のことを自慢したがるKをみんな疎ましいと思っていた。
 そんなKは小学校を卒業する前に、遠くの親戚に引き取られ、転校していった。彼女の転校を知った当時の私は背筋が凍るような思いをした。だって、彼女の転校は私たちのせいだから。
 Kはクラス中から疎まれていたと言ったが、男の子が直接悪口を言うのに対して、女の子は彼女とかわらないように避けていた。そのため、Kは休憩時間には一人で自由帳に向かってひたすら絵を描いていた。その頃の私はあまり彼女のことは褒めたくなかったが、彼女の絵は非常にセンスがあり、きれいだった。
 はっきり言ってしまえば、絵を描くのが好きな真央ちゃんより、上手だった。
 きっと真央ちゃんもそのことをわかっていたんだと思う。

 「ねえ、Kの自由帳、かくしてみようよ」
 真央ちゃんの心の中は真っ黒な嫉妬の塊でいっぱいだったんだと思う。私、京子ちゃん、彩ちゃんは一瞬戸惑った表情をした。
 「真央ちゃん……やめようよ」
 ばれたらまたわめきそうだよ、と京子ちゃんが反対の言葉を口にした。
 「でも、自由帳がなくなっちゃったら、どんな反応をするんだろうね」
 真央ちゃんに従順な彩ちゃんは意地悪そうに笑っていた。
 でも、一番卑怯なのは私だった。「算数の宿題するの忘れてたから、終わらせてしまうね」と言って自分の席に戻った。算数のノートを開いても、内容は頭に全く入ってこなかったことを覚えている。
 この後、私を抜いた三人は、Kが席を外した瞬間に、彼女の自由帳を机の引き出しから奪い取った。
 私は彼女たちがどこに隠すのか気になった。でも、きっとすぐに見つかるところだろうし、見つからなくても後で戻すんだろうなと考えていた。
 しかし、彼女たちの行動は私の思考をはるかに凌駕していた。
 真央ちゃんが手に取った自由帳を、あろうことかゴミ箱の中に放り込んだのだ!
 思わず自分の席で空気をのんでしまった私に、真央ちゃんが冷たく「ぜったい、Kに言っちゃだめだからね」と言い放った。
 私はその言葉にうなずくしかなかった。だって、Kに言ってしまったら、きっと私は真央ちゃんたちにいじめられて、独りぼっちになる。
 クラスで独りぼっちということは、世界中に味方が一人も居ないことと同じことだ。家族を除くと「学校のクラスメイト」が私の世界のすべてだった。クラスでの独りぼっちは世界中に味方がいないことを意味する。大人になった今なら、すごくくだらないことだということはわかっている。だけど、まだ限られたコミュニティしか持たない子供にとって、それがどれだけつらいことか。
 私は「真央ちゃんにいじめられたら嫌だな」という気持ちでKに自由帳のありかを伝えることができなかった。
 私たち四人が教室に散り散りになった瞬間、Kが教室に入ってきた。まだ自由帳が取られたことには気づいていない。早く、Kが自分で自由帳を見つけますように、と願った。
 しかし算数の授業中、生徒たちが問題を解いている間、先生がごみ袋を焼却炉まで持って行ってしまったのだ。
 京子ちゃん、真央ちゃん、彩ちゃんがこの事件をいまだに覚えているのか、どのように考えているのか、それはもはやわからない。
 だけど、私はこの事件を絶対に忘れたくない、と思っている。
 自由帳はゴミに出されて消えてしまった。
 私の行動もゴミに出して燃やせたら、と何度も思ったが、過去の言動はゴミとして捨てることはできないのだ。


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このストーリーに関するコメント

18/04/23 いっき

もし過去の言動をゴミとして捨ててしまえれば、どれだけ楽だろう…誰しも一度はそう思う言動をしたことはあると思います。それを、実際にゴミとして捨てられたものと重ね合わせる発想が素晴らしく、タイトルの意味も秀逸でした。

18/04/24 冬垣ひなた

文月めぐさん、拝読しました。

言動とは、どんなに後悔しても捨てることはできないと改めて感じるお話です。簡単に消えてしまった取り返しのつかないものと、ごみとして捨てられない過去の対比に、色々考えさせられました。

18/04/30 泡沫恋歌

文月めぐ様、拝読しました。

こういうイジメは小学生の頃にありましたね。
たいていやった方はとっくに忘れてしまって、された方はずーっと忘れないパターンです。
主人公は直接参加しなかったのに忘れられないというのは、立派な子どもだと思います。
誰だって過ちはあります。過去は消せません。そこから何かを学びとっていければ良いのでは?

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