花咲寧さん

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18/04/10 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 花咲寧 閲覧数:490

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 私は、この世に生まれてこないほうがよかった。
 物心ついたころには両親から既に虐待を受けていて、親戚には罵声を浴びせられていた。小学校に上がれば苛められ、先生は見て見ぬ振り。理不尽だけど、生まれた時から続いている日常。
 何で学校に来てるの? 何で生きてるの?
 そんなの行く場所がないから。まだ生きていたい。生きていれば、いつかきっといいことがあるって信じてるから。

 どこに行けばいいのだろうか。とうとう家を追い出された。
 適当に外を歩く。なるべく人通りのない路地裏を通る。以前にもたたき出されたことがあり、その時は補導された。その後はいつもよりも酷い暴行を受け、本当に死に掛けた。
 私が生きているのは、そのときの死の恐怖から。時々もう死んでしまおうかと折れそうになる。そういう時に限って思い出す。もう二度と体験したくない。だから逃げなくちゃ。私のことを知っている人がいない、どこか遠くへ。
 路地裏を抜けて大通りに出る。道を挟んだ向こう側にはこの辺りでは一番大きい公園。
「お腹、空いた」
 ここ二日、まともに食事を摂っていない。公園に入る。
 ――バサッ。
 目の前に何かが落ちてきた。よく見ると、それは一羽の烏だった。静かにこちらを見つめている。私を餌と思っているのだろうか。烏の横を通る。結構近くを通ったのに飛び立たなかった。
「何で着いてくるの?」
 なんとなく視線を感じて振り返れば、さっきの烏が私の後ろを歩いていた。
「私なんかに着いてきても何もないよ」
 お金もない。食べ物もない。本当にこれからどうしようか。深夜一時過ぎ。子どもが出歩くには遅い時間。絶対に大人に見つかってはいけない。
「まだ着いてくる。あっ」
 前から誰か来る。いけない、隠れないと。そう思って辺りを見渡しても、隠れられそうな場所はない。どうしよう、こうしている間にも距離が近づいている。嫌だ、帰りたくない。
「キミ」
 声をかけられた瞬間、走ってきた道を戻る。待ちなさい、と言われたけれど誰が待つものか。あんな地獄にもう戻りたくない。次戻ったら殺される。
 ――私はまだ、生きたい!
 あんなところに帰るぐらいなら、どこでもいい。どこか遠くへ――。
「その願い、叶えてやろう」
「え?」
 超えのしたほうを向くと、おそらくさっきの烏が隣を飛んでいた。
「キミ、待ちなさい!!」
 ダメだ、追いつかれる。
 ――フワッ。
 体が突然宙に浮く。おまけに暖かい何かに包まれている感触までする。何が起こっているのだろうか。
「しっかり掴まっていろ」
 声がして見上げてみれば、濡れ羽色の髪に漆黒の着物を着た男性の姿。その背には、人間には存在しない髪と同じ色の翼が生えている。その美しい姿に、私は言葉を発せられなかった。言われたとおり背中に腕をまわしてしっかりとしがみつく。
「いい子だ」
「な、こ、これは何かの撮影なのか!?」
 男性は私を追いかけていた大人の声なんて聞こえていないかの用に流し、背中の翼を大きく広げ羽ばたいた。
「嘘、飛んでる!?」
 既に地上との距離がかなりあり、遠くに見えるビルよりも高い位置にいるように感じる。
 ――これは夢なのかな。
 だとしたら、とても素敵な夢だ。出来ることなら覚めないで、このまま遠くへと運んでほしい。
「安心しろ、夢じゃない」
「本当、ですか?」
「ああ」
「本当に、私のことを知っている人のいないどこか遠くへ、連れて行ってくれるんですか?」
「ああ。言っただろう、叶えてやると」
 ああ、もうあんな苦しい日々は来ないんだ。涙が頬を伝う。止められなくて、声を抑えることが出来ない。どうせ救いなんてないと思っていた。一生、あの地獄の中で生きていくんだと、思っていた。
「あんな連中よりも、お前のほうがよっぽど美しい」
 男性が頭を優しく撫でてくれる。こんなこと、親にもされたことがない。
「ずっと見ていた。ゴミと蔑ませ、甚振られ続けているのを。そんなことをするあの人間共のほうが、よっぽど穢れている」
「ずっと?」
「ああ、ずっとだ」
 男性の姿が、さっきの烏と重なる。
「助けてくれてありがとう、烏さん」
「ただで助けてやったわけじゃない。願いを叶えるのに一つだけ条件がある」
 もうあんな場所に戻らないでいいのなら、どんな条件でもいい。
「俺の伴侶になれ」
「はんりょ?」
「俺の嫁になれということだ」
「わ、私なんか可愛くないし、なんの取り柄もないですよ」
「言っただろう。あんな連中よりも、他の誰よりもお前のほうが美しいと」
 本当に私なんかでいいのだろうか。せっかく止まった涙が、また溢れ出す。
「ありがとう、ございます……!」
 私はこれから、烏さんと一緒に遠い土地で生きていく。あんな地獄のような――ゴミのような日々を忘れるほど、幸せになりたい。


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