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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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いろり

18/04/08 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:318

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 現金輸送車から奪いとった一億円をもって五人が、車を乗りすてて山にはいり、かねてからめぼしをつけていた廃屋にたどりついたときには、すでに雪がふりだしていた。練りに練った計画が見事功を奏して現金を手にした達成感に、かれらはどっぷりと満足感に浸っていた。
 うかれすぎるかれらにリーダーの渋谷が、抑揚のきいたバリトンでいった。
「今晩は、ここですごすんだ。そのぶんの食糧は用意してある」
 奥深い山あいにはさまれた、誰からも忘れられたようにたっている建物の、たれさがった木製の看板に、○○民宿の文字がかろうじてよみとれた。
「こんなところに宿があったとは、おどろきだ」
 玄関をくぐりぬけるとあらわれた、朽ちるにまかせたような室内を、物珍しげに小谷はみまわした。じっさい、ここにくるまでの、だらだらと岩場がつづくばかりの光景は殺伐として、およそ観光地には程遠かった。
「だから、つぶれちゃったんでしょう」
 前方の道路が前日の豪雨のため一部陥没し、通行止めになったと現金輸送車の警備員に伝えにゆく役目だったエリが、もっともなことを口にした。派手に髪を染めた彼女が、まさか強奪犯の一味だとはしらずに警備員の、一瞬のすきをついて他の仲間たちが銃で威嚇した。その内田と斎藤が、部屋のなかほどにある四角く切られた穴をみて、
「いろりだ。なるほどこの昔風の佇まいはただ、古臭いだけのものじゃなかったんだな」
「なんでもいいから、火をおこそうぜ。こんなところで火の気もなく一晩をすごすのは、願い下げだ」
「食料のほかに、薪も用意できなかったの」
 エリの非難に、渋谷は顔をしかめた。
「そんなもの買ったら、なにに使うか詮索する暇人が世の中にはたくさんいるのをしらないのか」
 みんなはさっそく廊下や二階をあるきまわって、木切れやカーテン、木製の椅子、段ボールと木の空き箱といったものをかきあつめた。
「一晩だけなら、なんとかなるだろ。それに、おれたちにはこれがあるんだ」
 と斎藤が、もとのケースから詰め替えた札束の入ったカバンをまるで女の肌でもなでるようにさすった。この金があるというだけで、冷え冷えとしたなかにあっても、かれらの気持ちはいちようにヒートアップするのだった。
 渋谷はライターを使ってカーテンをもやすと、灰がうめられた囲炉裏に舞い踊る火をほうりこんだ。
 夕方になると、風が窓をうるさくたたいた。本格的にふりだした雪に、はやくも岩も地上もみわけがつかなくなっていた。
「うう、さむ」
 内田がジャンパーのフードを力任せにひっぱりあげながら、みぶるいした。みんなはいろりにへばりつきながら、炎に手をつきだした。まだ時刻は八時をまわったばかりで、これから夜がふけていき、寒さはいっそう厳しくなっていくだろう。
場合によっては、枯れ木を折ればいいとたかをふんでいた渋谷も、降り積もる雪はすでに、窓もうめようというすさまじさだった。
 さっきたべた携帯食も、わかす器具がないので冷たいボトルの水でながしこんだエリは、おかげでますます体がひえこんできた。
 広くはない室内だったが、廃屋だけに隙間風がひどく、身をよせあうみんなの口数も、しだいにすくなくなっていった。
 斎藤がひきはがした木箱の残骸を、いろりにほうりこもうとしかけるのを、渋谷が厳しくとめた。
「そんなにいっぺんにいれるな」
 斎藤は舌打ちした。
「えらそうな口をたたくな」
「なにを」
「やめろ、やめろ。そんなにカッカしたら、よけい体熱が発散してさむくなるぜ」
 たしなめる小谷の口ぶりも、けわしかった。
 それからは誰もすすんで口をきくものがいなくなり、むっつりと黙りこむ五人の顔が、下からの炎に、みたこともない不気味な表情にいろどられた。
 いつしかうとうととまどろんでいたエリカが、はっと目をさますと、まわりのみんなもうつむいたままうとうとしている。ひとり渋谷だけが、いろりの番をするかのように、じっと火をみまもっている。そのきわめて弱くなった炎をみて彼女は、このまま寝入ってしまったら死んでしまわないかしらと怯えながらも、重くなったまぶたは、なんどあけようとしてもたれさがってくるのをどうすることもできなかった。
 つぎにエリカが目をさましたとき、渋谷はまだ炎の番をしていた。夜明けはもうちかかった。いつまでももえつづける炎を、彼女はふしぎそうにながめた。火種はもう、つきているころなのに。
 エリカの視線は、いろりに火種をいれつづける渋谷の手元にうつった。四角い紙きれが、彼の手から、つぎつぎといつまでもとぎれることなくくべられつづけていた。それがじぶんたちが強奪してきた一万円札だとわかっても、彼女には、いろりのなかでもえさかる炎のありがたみにかえられるものなどなにもないとおもえた。


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