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ポテトチップスさん

20代の頃、小説家を目指していました。 ですが実力がないと自覚し、小説家の夢を諦めました。ですが久方ぶりに、時空モノガタリ文学賞に参加させて頂きます。 ブログで小説プロットを公開してます。ブログ掲載中のプロットを、小説練習用の題材にご自由にご利用下さい。http://www.potetoykk.com

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007

18/04/07 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 ポテトチップス 閲覧数:313

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 人の良さそうな人に見えた。頭は禿げ上がってはいるが口角が常に上がっているので、恵比寿天のような印象を感じさせた。
 矢鍋光二は応接ソファーの下座に座り、上座に座る田崎洋一から面接を受けていた。株式会社美々産業は、大田区蒲田に所在する産業ゴミを収集運搬する会社で、矢鍋は知人の紹介でこうして面接を受けていた。
「ふーん、47歳か。トラックの運転の経験はあるのね」田崎は、履歴書に目を落としながら言う。
「はい。若い頃に大型免許を取得しまして、長距離ドライバーを5年程務めた経験があります」
「矢鍋さんは31歳以降の経歴が自営業と書いてあるけど、どんな自営業をされていたの?」
 田崎は矢鍋の表情から人間性を推察してやろうとするような眼差しを向けてくる。相当人物を見る眼力が高いように感じ、視線に痛みを覚えた。
「31歳以降は、自宅でできるパソコンを使った内職みたいなことを自営業でしてました」
「ふーん。またどうして、うちみたいな会社で働こうと思ったの?」
「また運転の仕事に興味が湧いてきまして、軽部さんに御社を紹介できるよと言われたので即答で働きたいとお願いしました」
 軽部とは、1年前まで美々産業で専務をやっていた人物で、田崎社長の元部下である。
「軽部とは、どういう関係なの?」
「飲み屋で知り合いました、飲み友達です」
 軽部との関係をさらに訊かれるかと身構えたが、その後は辞めた元部下になど関心がないといった具合に別の質問を田崎はした。
「うちは、産業ゴミを扱う会社だから力仕事だよ。ただ運転だけすれば済む仕事じゃないからね。その辺は大丈夫なの?」
「大丈夫です。仕事に慣れるまでは体が悲鳴を上げると思いますが、覚悟はしています」
「そう。なら矢鍋さんを採用しましょう。期待してるからね」
「ありがとうございます」

 採用から1ヵ月が経過した。矢鍋光二は仕事にもだいぶ慣れた。
 とある金曜日の夜、矢鍋は美々産業の先輩である押尾拓也と居酒屋で酒を酌み交わしていた。先輩とは言っても、年齢的には押尾はまだ24歳の青年だ。
 だいぶ酒に呑まれた押尾は普段の礼儀正しい青年から、よくぞそこまで言えると仰天しそうになるほど会社や同僚の悪態をつく。
 とくに社長である田崎には、相当不満を抱いている様子だ。
「矢鍋さん聞いてくださいよ。あのハゲ社長は本当に汚い人間なんすよ。よくもまあ悪知恵が次から次へと浮かぶものだと 半ば俺は呆れてるんすよ。給料だって会社は儲かってるのに従業員に還元しないしさ」
 矢鍋は押尾の話が面白く、聞き役に徹する。
「あのハゲ社長は、死んだら地獄行きっすよ。俺はあのハゲ社長の悪事に強制的に荷担させられてるんす」
 矢鍋はゲラゲラ笑いながら、話の続きを黙って聞き続けた。

 矢鍋が美々産業で働き始めて3ヶ月が経過したある土曜日の夕方頃、この日は仕事が休日のため所用で新宿に足を運び、その帰りでJR京浜東北線の電車に揺られていた。
 眠気と戦いながら蒲田駅で下車すると、ちょうどスマホの着信が鳴った。画面には『軽部さん』と表示。
「もしもし」
『どうもどうも、軽部です。どうです仕事の方は?』
「ええ、なんとか順調です。軽部さんには、美々産業を紹介して頂き感謝してます」
『いえ、私はなにも……』
 軽部は仕事の進み具合を知りたいのだと矢鍋は会話の間から察したが、あえてそれには応えない。
「また今度、お酒でも」
『そうですね。それでは』
 電話を切ると「終盤だな」と、自分に言い聞かせるように呟いた。

 翌週の月曜日になった。この日の出勤を最後に矢鍋は美々産業を一身上の都合により退社した。2週間前に田崎社長に辞表を出していたのだ。
 同じ週の金曜日の朝、矢鍋は朝のテレビワイドショーにチャンネルを合わせると、株式会社美々産業社長である田崎が大勢の撮影カメラやマスコミ関係者に取り囲まれている映像が流れた。
 テレビのテロップには、『大手牛丼チェーンの廃棄冷凍から揚げを偽装してスーパーに横流し販売』と書かれていた。
 田崎はしどろもどろに言葉を発し、あの特徴的な恵比寿天のような顔はただの肥えた悪人の顔にしか見えなかった。
 矢鍋は、今朝発売の週間雑誌『F−DAY』のページを捲り、自分が書いた記事を読み返した。
 矢鍋は31歳の時から突撃潜入レポのライターとして、ブラック企業に体当たりで就職してはその闇を暴露してきた。今回の美々産業に的を絞った理由は、軽部という元美々産業専務と酒場で偶然に出会い、田崎社長の闇の顔の話を聞いて興味をもったことが要因だった。
 F−DAYの雑誌を閉じると、来週から突撃潜入レポする大手タクシー会社の熊田啓介社長について、現段階で知りえる情報収集に矢鍋は取り掛る。
 自分は企業に潜入する正義のスパイだと、改めて思った。


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