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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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崇高な声

18/04/02 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:299

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 なんてすばらしい世界なんだ。
 そのすばらしさは、感嘆符をいくつならべてもまだまだ足りないぐらいだった。
 長期にわたる宇宙空間の飛行に、ほとほとうんざりしていた惑星調査隊の面々は、宇宙船からおりたち眼前にひろがるそれはうつくしい地上の光景をまのあたりにして、感動のあまり言葉をなくした。
 ゆたかな緑の丘、青々と水をたたえる湖、ふきつけるさわやかな風、人間が生きてゆくうえに必要な大気にみちた温暖な気候は、かれらから重々しい生命維持装置を取り除いていた。
「二度と消毒薬くさい宇宙船のつくられた空気はすいたくないわ」
 エリカが腹の底から本音をもらすと、隣にいたハルヤも同感だとばかり大きくうなずいていた。彼女ならずとも、この惑星に魅了されないものはなかっただろう。

――およそ百名の隊員たちは、十年ごとの冷凍睡眠を二十数回くりかえすことによって、白鳥座の三番惑星のかなたからこの星に飛来した――
 
 いきなりその声は、すべての隊員の心に伝わってきた。最初は誰かの呟きかと、あたりをみまわすものもいた。だが周囲にはみなれた顔の仲間たちがいるばかりで、第一、調査隊の機密事項を軽々しく船外で口にするなどゆるされることではなかった。
 声はまたきこえた。

――人間は、食べたものを消化器官によって栄養素に分解し、体内にエネルギーとしてたくわえる――
 
 ふいをうたれたために、最初こそうろたえたかれらも、その声のもつ一種荘厳な響きに、そのうち畏敬の念さえ抱くようになっていた。神にかたりかけられたら、こうもあろうかといったみんなの一様な反応だった。
「この星の住人だろうか」
 けんめいに冷静さをよそおって隊長がいった。
「姿はみえないのに」
「われわれの肉眼にはとらえられないだけかもしれない。それとも、すでに肉体から解脱した生命体とはいえまいか」
「わたしもそうおもうわ」
 エリカはまだ感動からさめやらない面持ちだった。
「ここの光景にはなにか、神々しいものを感じるもの。肉体なんてものはとおの昔に超越した種族が、ここにはきっと存在するのよ」
 ハルヤもまた、彼女のいう精神生命体の存在を、じつはさっきから強く感じていた。それにくらべたら、自分たちなど、地をはう虫にも等しいものにおもえてくるような、人智をはるかに超越したものの存在を……。
 それからのひと月あまりのあいだ、その神的存在にみつめられているという意識は、つねに隊員たちにつきまとった。なにをするにも高邁ななにものかに観察されているという意識に、隊員たちだれもが、じぶんたちのふるまいにおいて、襟を正す結果を招いた。かれらはいまほど職務に忠実に励んだことはなかった。どんなに骨の折れる仕事にも、すすんで励み、いつにない成果をあげることができた。
 おかけで調査はぶじ終了し、三日後にここをひきあげふたたび宇宙に飛び立つことにきまった。
 周辺の清掃がはじまった。四分の半世紀前、惑星におりたった隊員たちからでたわずかなごみにある種の菌が付着していて、異常繁殖したあげく惑星の住民を死滅させてからは、後始末は喫緊の課題となった。きょう一日は完全殺菌をほどこされた人間たちによる、地上のごみ拾いにあてられることになった。
「どんなちいさなごみでも、必ず拾うんだ」
 最終的には洗浄される地上を、みんなはごみを探して歩き回った。じっさいには無用な行為とはわかっていても、調査隊の慣例として行われてきて、いつもなら文句たらたらの隊員たちも、この惑星にかぎってはみな、もくもくと作業に邁進した。
 ゴミ拾いがおわったとき、エリカがハルヤにいった。
「わたし、この星に残留することにきめたの」
 惑星に調査目的で着陸したときは、これから五年間のデータ収集のための観測ステーションが設けられることになっていた。そこには二人の観測員が残ることになっていて、志願者を募ることになっていた。たいていは、もはや宇宙飛行に耐えられない年配者がえらばれたが、今回は該当者がなかったため志願者を募ることになった。その志願に、エリカが名乗りをあげたのだった。
「この惑星こそ、私がもとめてきた永住の地だとわかったの」
 その彼女の決意は、ハルヤが予測していたものだった。。彼はそして、エリカからもちかけられるつぎの願いを、待ち受けている自分を意識した。
「あなたも、いっしょに残らない」
 志願に性別は問われない。ハルヤはまをおかずうなずいていた。
 そのとき、声が二人に語り掛けた。

――ごみはもちかえるように――

 声との接触において、思考力も格段にすすんでいたかれらには、そのごみに該当するのがじぶんたちだということを、いまのワンフレーズからたちまちのうちに察することができた。

 








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