1. トップページ
  2. ゴミ置き場

風宮 雅俊さん

テーマに沿った物語を、どのくらいのレベルで書けるかな? と言う事で登録してみました。 アマゾンの電子書籍キンドルで作品出してます。こちらも宜しくお願いします。 ツイッター: @tw_kazamiya

性別 男性
将来の夢 世界一周の船旅で、船室に籠って小説を書く事
座右の銘

投稿済みの作品

1

ゴミ置き場

18/04/02 コンテスト(テーマ):第155回 時空モノガタリ文学賞 【 ゴミ 】 コメント:0件 風宮 雅俊 閲覧数:230

この作品を評価する

 今日も休み、世間は朝から騒がしい。子供たちは賑やかに学校に通っていく。大人たちは眠そうな顔で駅に向かっている。どちらの姿も自分にとっては昔の話だ。今は悠悠自適の年金暮らし・・・・のはずだった。厚生年金とは別の企業年金がある大手に入社したのに、企業戦士危うきに近づかずで無事に定年まで辿り着いたのに。
 定年日、妻は置手紙一つで通帳と印鑑を持って友達とクルージングに出掛けてしまった。半年は戻ってこないらしい・・・・。

 定年日から全てが狂ってしまった。コーヒーメーカーのボタンを押してもコーヒーが出てこない。風呂の時間に入っても風呂桶は空のまま。ビールを飲むにも何処にあるのか分からない。朝食も夕飯もテーブルの上に出て来ない。呼吸をする様に当たり前の日常が、定年によっていとも簡単に崩れ去ってしまった。
 再就職すれば、コーヒーメーカーからコーヒーが出る様になるのか・・・・しかし、そこは定年まで無難に生き抜いてきたスキルが役に立つ。北風が吹くなら誰かの陰に入ればいい。上司が白を黒と言うのであれば、黒でいい。光の当たらないところでは白も黒もない。この一瞬を生き延びる事が絶対的な正しさだ。幸い丁度いいのがいた。先に定年を迎えた奴だ。平身低頭で電話をすれば喜んで教えてくれる。駄賃で使える便利な奴だ。
 今では、コーヒーメーカーにコーヒーと水をセット出来るようになった。それに、ゴミ捨てにも行ける様になった。

 通りに面したゴミ置き場には、すでに沢山のゴミ袋が置かれている。惣菜のパック、菓子の袋、指定ゴミ袋は生活まで透けて見える。携帯の督促状、缶ビールどっちも可燃ゴミで出したらイカンだろ。野菜くずに魚の骨、夕方の焼き魚の匂いはこれかも。
「魚か・・・・」
 先週、幕の内弁当の鮭を食べた。それ以来魚を食べていない。駅前にうまい焼き魚を出す店があるが、連日のコンビニ弁当で小遣いの残りもわずかしかない。引き出したくても通帳もカードも持って行かれてはどうしようもない。
 魚を食べたい。せめて千円あれば・・・・、

 財布?

 明らかにゴミ袋の中に財布がある。どこからどう見ても財布に間違いはない。隣りのゴミ袋から考えるに、喧嘩の末に彼氏の物をゴミで出したのかも知れない。周りのゴミ袋で全体が分からないが、財布にはふくらみがある。中身があるのは間違いないが、中身がレシートなのか現金なのか、これが問題だ。
 あのゴミ袋を退かせば、見えるかもしれない。あのゴミ袋を退かすには、あのゴミ袋を退かしてそのゴミ袋を退かせば見えるはず・・・・が、ゴミを漁っていると思われるのは恥ずかしい。何とか、少し上のこの角度から見ればもう少し分かるかもしれないけど、足元に転がっているゴミ袋を動かさないと近づく事が出来ない。もう少し立ち位置を変えたら分かるかもしれない・・・・。

 ! 視線を感じる。振り返ると、小学生がヒソヒソ話しながら見ている。

 目が合うと・・・、走って行ってしまった。これはまずい。ゴミを漁って入ると思われたかも。ならば、持ち帰って中身を確認するしかない。ゴミ置き場に置いた瞬間、所有権を放棄した事になる。はず・・・・。

 他のゴミ袋を退かしていると『資源ゴミの持ち帰り禁止』目の前の看板に書いてあった。今日は可燃ごみの回収日だから、資源ゴミではない。でも、古着は資源ゴミ? 条例で禁止されている? 罰金二十万円? 訳が分からない・・・・。
 今日のゴミは可燃ゴミだ。可燃ゴミ置き場にある訳だから、誰の物でもない。少なくともここにあるのは可燃ゴミだ。

 意を決して、ゴミ袋を掴むともう一人掴んでいる奴がいた。ギロリと睨んでくる。ゴミ回収の作業員だ。
 このゴミには、夕飯の魚が掛かっている負ける訳にはいかない。
「この財布。わたしのゴミです」
 やっとの思いで作業員からゴミを勝ち取ると、抱きかかえ走って逃げた。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン