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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。 (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。 ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。
性別 | 女性 |
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将来の夢 | 星座になること |
座右の銘 | 珊瑚の夢は夜ひらく |
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このストーリーに関するコメント
18/04/02 霜月 秋旻
そらの珊瑚さま、拝読しました。
実際にご祝儀袋を開けて千円が出てきたときの反応がどうだったのかが気になります。元彼?に少しでもダメージを与えられたらいいなと願ってます。
18/04/05 そらの珊瑚
霜月秋介さん、ありがとうございます。
千円の意味に込められた気持ちに気づいてどう思うかは、彼の人間性にかかってくるのかなあと思います。
18/04/24 泡沫恋歌
そらの珊瑚 様、拝読しました。
たった千円のご祝儀って、わりとインパクトがあると思います。
それとくしゃくしゃの2千円札とかいいかも。
18/05/02 そらの珊瑚
泡沫恋歌さん、ありがとうございます。
わあ、2千円! 懐かしいです。とんと見かけなくなりましたね。
結婚式の招待状が届いた。
差出人は、付き合っている彼だった。「ふえっ?」とっさに変な声が出る。眼を凝らしてみても、間違いではなかった。彼が結婚? 私とじゃなく? 相手の名前は私が知らない女だった。
そういえば、と思い当る。会社の同僚の彼と付き合いだしてから約三年。ここ半年くらい、なんだか疎遠だったことを。お互い仕事が忙しいこともあり、デートらしいデートもなかった。それでもゴールデンウィークにはどこか旅行しようと話していたのに。
こういうのを青天の霹靂っていうのではないだろうか?
まさか自分の人生において、せいてんのへきれき、が起きるとは思ってもみなかったことだ。普通に結婚して働いて、年をとったら縁側で夫婦でお茶をすするのが夢だったのに。
彼とは結婚の約束はしていなかったが、こんなのあんまりじゃないか、と猛烈に腹が立ってくる。
百歩譲って、ちゃんと別れ話をしてくれてたら、それなりに静かに受け止められていたかもしれないのに。
一体どういうつもりで私に招待状を出したんだろうか。
同じ部署で同期が十名足らずいて、時々同期会も開かれ、みな仲が良かった。けれど私たちが付き合っていることは内緒にしておいた。仕事がやりにくくなるから、と彼が言ったので同意したのだ。だから同期みんなを招待して、私だけに出さない
わけにはいかなかったのかもしれない。
おそらく招待状は出しても、私は欠席の返事を出すだろうと、彼は考えたに違いない。
そうはいくか。いってたまるか。
私の中でむくむくと湧き上がってきた感情は「復讐」だった。
結婚式に出席して、彼に復讐してやらなければ気が収まらない。
私は返信ハガキにの出席のところに、特大の丸を書き、ポストに投函した。
けれどどうやって復讐したらいいだろう。
ウエディングドレスを着ていく、のはどうか? 彼にかなりのダメージを与えられそうだが、いや、ダメだ。私が仕事を続けられなくなる。頭が狂っているって噂が立ったら困る。
式で彼にビールをぶっかけるというのも思いつくが、それも同じ理由で却下。
そしてたどりついたのは、御祝儀袋の中に千円札一枚だけ入れて受付に出すことだった。
我ながらしょうもない復讐だと笑ってしまう。
自分に復讐にセンスが微塵もないことに、がっかりすると同時にちょっとだけ安心もした。
式が終わったあと、彼が妻になる人とひとつひとつ御祝儀袋を開けて、中身をチェックしないかなあと思う。
「あれ、この人千円だよ、おかしくない?」って新婦が女の勘を働かせてくれるのを姑息に願う。
「なんだかこの人に悪意感じるんだけど。どういう付き合いの人?」
新婦にそう言われて冷や汗をかけばいい。もめて、新婚旅行に行く前に離婚でもしたらいい。まあ、そんなんでは離婚はしないだろうなあ。
ハネムーンはどこに行くんだろう。ヨーロッパかハワイか。私なんか彼とは近場の温泉に一泊したことが一度だけなのに。
飛行機が落ちれば……と途中まで思って止めた。
そこまでしたらあまりにも自分が惨めだ。もうじゅうぶん惨めなのかもしれないけど。
当日、私は計画通りに復讐を実行した。
前日はエステで肌を磨き、朝早くから美容院にも行った。
ドレスはレンタルだったが、合計五万円ほどの出費だった。
我ながら馬鹿みたいだと思ったが、不思議に惜しくはなかった。
受付で千円の入った御祝儀を出す私の笑顔は美しくなければならなかった。
そのあと、式は出ずに私は外へ出た。
ビールでも飲んで乾杯したいような気分だったが、まだ昼だったのであきらめた。それに一人で乾杯するのは寂し過ぎる。
履きなれてないハイヒールのせいか、踵が痛み出す。
駅までの途中、ちょうど靴屋を見つけたので、スニーカーを買った。
ハイヒールを脱いでスニーカーに履き替える。
「これ、捨ててもらえますか?」
店員に脱いだハイヒールを差し出す。
「いいんですか? まだ新しそうですが」
「いいんです。もう未練なんかないから。こうなったら旅行も一人で行くし、お茶だって一人で飲みますから」
店員が怪訝な顔して、首をかしげた。
訳のわからぬ客だと思っただろう。だって、ふわんふわんのドレスにスニーカーだもの。
私は軽くなった足で、とりあえず歩き出す。歩ける。歩ける。どこまでも歩けそうだった。
心も軽くなった気がした。
空を見上げる。
誰かの手を離れた赤い風船がビルの間に吸い込まれていく。
晴天が目に染みた。