1. トップページ
  2. 悪女と科学者

アシタバさん

未熟者ですが宜しくお願いします。

性別 男性
将来の夢
座右の銘

投稿済みの作品

0

悪女と科学者

18/04/01 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 アシタバ 閲覧数:244

この作品を評価する

 女が目を覚ますと、なぜか彼女は病院の手術台のようなところで寝かされていた。彼女は一体なぜ自分はこんなところで寝ていたのかわからず、必死に記憶を辿っていく。すると、どうしたことか経緯を思い出していく女の顔色はみるみると青ざめていった。
(わたしは確か――)
 ドアが開く音がした。彼女の思考は中断され、部屋に白衣姿の老人が入ってきた。
「目が覚めたんだね」
 女は彼の顔に覚えがあった。そして、悲鳴をあげた。
「ユウジさん、どうしたの、その姿は」
 ベッドからずり落ちんばかりに興奮して、女は老人を凝視した。ユウジと呼ばれた老人はパニックを起こした女に近づいて、落ち着かせようと両肩に手をのせた。
「驚くのも無理はない。カオリさん、僕がこんな姿をしているのは妻である君を生き返らせるのに長い月日が掛かったからなんだよ」
 女が息を飲んだ。「生き返らせた?」
 老人の頭がこくりと垂れる。
「そうさ。天才と称される僕の人生、それと国家予算並みの金を使ってね」と言い、彼はカオリの体温を確かめるように彼女の頬に手をあてた。
 信じられない、と女は困惑する、が、深呼吸をして、幾分かの冷静さを取り戻すと、考えを改め始める。彼は世紀の天才科学者、不可能を可能にする男、その頭脳で巨万の富を築いた世界有数の金持ち、わたしの夫、そして――今までで最高の金ズル。そう、こいつなら死者を蘇らせることすらやりかねない、と。彼女は事実を受け入れ始める。そして、同時に思った。これはまずい。
「ところでカオリさん。美しい君は今まで随分と大勢の男を自分の為に利用してきたらしいね。僕を含めて」
 それを聞いたカオリの背中に嫌な汗がつたう。
「君がどんな人間か、もう調べはついている」
 夫のユウジは全てを知っていた。美しい容姿を存分に活かしてやりたい放題、自分に有益な男を骨の髄までしゃぶり尽くすカオリの本性。最期は利用した男のうちの一人に、不覚にも刺殺された愚かな末路。
 カオリはユウジの瞳の奥に炎を見た。永遠に消えることのないどす黒い炎だった。
「生き返らせて、わたしをどうする気?」拷問にでもかける気か、とカオリの声が恐怖に震えた。
「当時、君の動向がおかしいことに気づいて探偵を雇った。その結果すべてが明らかになった時、君みたいな女に上手いこと騙されていた屈辱で気が狂いそうだったよ、最悪なのは僕は君を本気で愛してしまったんだ、おまけに君ときたら、調査の直後に他人に殺されてしまって、僕の手の届かない存在になってしまった」
 過去を語るユウジの表情が醜く歪んでいく。
「だが、あいにく僕は不可能を可能にする男でね」
 いつの間にかユウジの手には拳銃が握られていた。銃口はカオリに向けられている。そして、なんの躊躇もなく引き金を引いた。
「僕の手で君に復讐を果たす。そのために君を生き返らせた」
 カオリは思わず目をきつく閉じた。
 しかし、どうしたことか銃声を耳にしてからも自分の意識がはっきりとしていて痛みがないことに気がついた。驚きの視線をユウジに向けると、彼の表情もまた驚きに満ちていた。
「まさか、君は生き返る過程で不老不死、そして不死身になってしまったというのか」そう呟いた。
 それを聞いたカオリは一目散にベッドからユウジに飛び掛かり、殴り倒して拳銃を奪った。床に倒れたユウジに逆に銃口を向けて、高笑いをする。
「あはっ、天才のとんだ誤算ね。復讐どころか、死なない、老いない、若いままの最高の肉体をプレゼントしてくれたわけだわ。ありがとうダーリン。これで今度こそ最高の人生を掴んでやる」
 銃声が再び鳴り響く。ユウジの白衣が鮮血に染まった。
「わたしを殺せなくて残念だったわね。さようなら旦那様」
 すると、室内が低い笑い声に満ちていく。掠れてはいるもののユウジからだった。
「上手くいったな、僕の演技もなかなか君に負けてない」
 訝しげな顔つきのカオリに息も絶え絶えのユウジが部屋の隅にある姿見を指さし「ご自慢の美貌を見てごらん」と促す。
 数秒後、甲高い悲鳴が上がった。カオリのあげた悲鳴。それは恐怖映画のゾンビを見たかのようなものだった。
「君の顔の白い肌、元にもどさなかったよ」
 それを聞いたカオリは横たわるユウジに詰め寄り襟元をつかみ上げ「なんとかしなさい」と必死に体を揺さぶった。
 しかし
「あきらめな。撃たれてもさっきみたいに傷はすぐに塞がるから自殺や整形は無理、年老いて死ぬこともない、世界で唯一何とか出来る男は――君が撃ち殺したんだ」とユウジは皮肉たっぷりに言って愉快そうに目を細める。
 カオリは獣のような咆哮をあげた。ひどく耳障りだ。しかし、それを聞いたユウジはようやく胸に巣くう恨みが晴れて、復讐を決意して以来の穏やかな気持ちで、永遠に瞳を閉じるのだった。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

ログイン