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若早称平さん

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性別 男性
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18/03/30 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 若早称平 閲覧数:366

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 恐る恐る下駄箱を開けると上履きの中に大量の画鋲が詰められていて、その横にはいつもの手紙が添えられていた。一応手紙に目を通してみるが、「復讐の炎に焼かれろ」とか「お前のやったことを思い出せ」とか厨二病じみた脅迫の言葉が並べられていた。

 広げるとA4ほどの大きさになるその手紙で箱を作り、上履きの中の画鋲を移すとそのまま教室へ向かった。


「おはよう、尾関」

 背筋を伸ばし、なにやら難しそうな本を読んでいた彼女は僕が声をかけると飛び上がらんばかりに驚いた。

「靴に画鋲を入れるのって気付かずに履いて痛い思いをさせたいからだろ? こんなにもりもりに入れたら意味ないよ」

 尾関の机の上に画鋲を置くと、なんのことかしら? と動揺丸出しでしらを切る。ほぼ毎日繰り返される僕への復讐と称した嫌がらせの犯人はこの子だ。「思い出せ」とよく脅迫文に書かれているが、それも彼女のただのお気に入りの文言であって僕は忘れたことすらない。

 今年初めて同じクラスになって尾関のことを知ったのだが、一年の時から彼女は変わり者で有名だったらしい。もっとも廊下に魔方陣を描いて何かを召喚しようとしていただとか、机の周りを黒い布で覆って何かを封印しようとしていただとか、本当か嘘かわからないような噂を僕が耳にしたのはつい最近のことだ。黙っていれば可愛いのにと溜め息まじりの感想を持たれて一線を置かれている、尾関はそういう女の子だった。

 僕には三歳上に姉がいて、僕が小学生だった頃まさに姉がそういう状態だったので、ある程度の免疫が出来ていたのかもしれない。気が付くと彼女とまともにからむのはクラスで僕だけになっていた。

 今まで散々無視され、疎まれてきた彼女が唯一相手をしてくれるとはいえ、僕に対してまさか恋心を抱くだなんて想像さえもしていなかった。自惚れでもなんでもなく。

 だからある日の昼休みに「君を私のパートナーにしてあげよう」と突然告げられた時もそれが本気だとは思わず「なにそれ? もしかして告白?」と弁当を食べながら聞き返してしまった。

「告白」という言葉に敏感な年頃だ。僕の不用意な発言が起こしたざわめきは彼女の答えを待つ間もなく荒波のように教室中を駆け巡った。返す波は嘲笑となり、あっという間に彼女を飲み込む。赤面した彼女は弾かれたように教室から出て行った。

 彼女の後を追うべきなのか考えているうちに周囲の冷やかしに囲まれて動けなくなってしまった。五時間目が始まる直前に教室に戻ってきた彼女は歴戦の暗殺者のような目で僕を睨みつけながら席に着いた。

 元々僕も尾関もクラスで話題になるような存在ではなかったから、クラスメイトの興味はすぐに他に移ってしまったが、彼女の僕への復讐は今もまだ続いている。


 そんなこんなで僕は彼女からの復讐という名の地味な嫌がらせを容認している。全ては僕のデリカシーのなさが招いたことだ。しかし、どこかで僕が多足類が苦手なのを聞きつけたのか、机の中にムカデのおもちゃが入れられていた今日はさすがに堪忍袋の緒が切れた。

「尾関、ちょっといい?」

 放課後、帰ろうとする尾関を捕まえて空き教室に連れてきた。尾関は不服そうな顔を崩そうとはしない。

「お前いい加減にしろよ。たしかに皆の前であんなリアクション取ったのは悪かったと思うけどさ、いつまで続けるつもりなんだよ?」

「うるさいうるさい! 自分のしたことを思い出すまでだ!」

 逆上した尾関は声を荒げながら通学カバンの中から虫のおもちゃを出しては僕に投げつけてくる。あまりの子供じみた態度に少々苛ついた僕はその一つを尾関に投げ返す。彼女は悲鳴を上げて飛び避けた。

「なにするんだ! お前、孫の代まで呪ってやるからな!」

 僕の反撃が予想外だったのだろう、息を切らしながら呪いの言葉を僕にぶつけてきた。反撃……そうか。その言葉で彼女が何を思い出せと言っているのかようやくわかった気がした。

「なあ、尾関。わかった、悪かったよ。僕はお前の告白に返事をしてなかったんだな」

 尾関が黙ったまま僕を見る。

「いいよ。変わった子は好きだし、それに僕じゃなきゃ尾関と付き合えるヤツなんて他にいないでしょ」

 尾関の顔が真っ赤になっていた。吹奏楽部のトランペットが聞こえる。

「で、どうなの?」

「……さっきの孫の代まで、っていうのは取り消しておく」

 うつむいたまま尾関が言った。

「だって私の孫になるかもしれないから」

「いや、それはさすがに気が早い」

 笑う僕の顔面めがけて再びムカデが飛んできたのは言うまでもない。


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