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れいぃさん

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人形。

18/03/17 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:1件 れいぃ 閲覧数:344

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 誰がなんと言おうと、僕にはもうあなたしかいませんでした。
 この気持ちもあなたなら分かってくださると信じています。
 動かないあなたに微笑みかけ、手足を眼鏡ふきできれいに拭き清める僕はそれだけで、世界一の果報者の心地でした。

 僕とあなたが出会ったのは小さな名もないがらくた屋の店先、あなたはかろうじてディスプレィされていて、マジックで1500円と乱暴に書かれた紙を貼りつけられていました。
 僕はただフラッとその店に足を踏み入れただけですが、その時点ですでにあなたを迎え入れることは決まっていたのです。あなたこそが僕の孤独を埋めてくれる存在でした。
 細い腕に長いロッドを持ち、その先端を高く掲げて誇らしげなあなた。名前すら知りませんが、美しさに理由など必要ありませんでした。いい年をしてフィギュアなどを購入するのは少しためらわれましたが、ここで動かない後悔のほうが尾を引きそうな気がします。僕はあなたをそっと抱いて店主の元へ向かいました。
「はい。1500円ね。千円札ないの?」
 ぶっきらぼうな店主の態度にも負けず、僕はぶじあなたを購入しました。
 あなたの名を僕は知りませんから、仮にアテネと呼ぶことにします。気高く美しい、女神の名前です。
 僕は実際の性別は女でしたが、女神とはほど遠い姿だったので、美しい女性を見るとどうしても畏怖してしまいます。
 僕は、周囲の女のコたちに馴染めず、いつもつまはじきにされていました。一人称を「僕」にしたら少女の世界では違和感を覚えられるということや、人と違う行動をとることが仲間外れのもとになることくらいはちゃんと知っています。だけど、みんなが普通にこなしている事柄のほとんどが僕にはたまらなく苦痛なので、どうしようもないのです。

 ああ、誰からも目を向けられなくてもかまわない。LINEをする相手もおらず、毎日あなたの写真が増えるだけ。それも虚しいと嘆いたりはいたしません。
 愛をもらえなくてもかまわない。僕の心にはいつも、あなたへの愛が溢れかえっています。どこにも隙間などありませぬ。だってたとえ生きた人間とどんなに深く馴れ合っても結局、最期のときは誰ともいっしょに逝けないのですもの。生きている間に寂しいことなど何の苦がありましょうか。死んでからのほうが時間は長いのです。孤独には慣れておかなければ。
 そんなふうに思う僕にとって、世界はあなたとの二人だけのものでした。密かに、テストで90点以上とったらあなたに口づけていいことに決めていました。それも、頬ではなくてくちびるに。音をたてて三秒以上です。ゆるりと広がった髪に隠されたあなたの美しい白い額に口づける瞬間がいつも、僕の至福でした。
 あなたが急に体温を持ち、人間となって僕を抱き締めてくれる夢も、何度も見ました。そんな日は一日中誰とも口をきかず、むっつりと黙りこんだまま硬直して椅子にへばりついていました。あなたのためならどんなことでもしてしまいます。一度など、僕の留守中に訪ねてきた幼い従妹が、大切なあなたをおもちゃにして遊んでいるのを帰宅直後に見つけ、思わず手をあげてしまいました。従妹はひどく泣き、僕は母にしかられましたが、それでもあなたを守るためだと思えば、そのくらいのことは屁でもありませんでした。

 僕があなたの本性を知ってしまったのは、そんな暮らしが十五年も続いてしまった後です。
 何かの漫画のキャラクターであるあなたのことは、以前にも調べようとしたことがありましたが、どこにも情報がなく苦労していました。しまいには、もう真実など知らなくてもいいやと投げ出してしまったくらいです。
 僕はもう三十歳になっていました。
 女神のようなあなたの内面を思い、異世界に暮らす凛々しいあなたの姿だけを支えに、日々を送っていたのです。
 しかし、突きつけられた現実は残酷でした。
 インターネットを彷徨っていたとき、僕は偶然にある掲示板に迷い込んだのです。
「ビッチの自覚がある人」というタイトルのスレッドに、あなたの画像が貼られていました。
 そこでのあなたは僕の思う女神の姿ではなく、男に組み敷かれて痴態をさらし、目を剥いてピースサインなどしているのでした。
『これはなnデスか?』
 怒りに震えて誤変換しながら書きこんだ僕に、住人が答えてくれました。
『神エロゲのももなちゃんじゃん』
 あなたは、男の欲望を一身に受ける下品なゲームのキャラクターだったのです。

 翌日は偶然にも、不燃ゴミの収集日でした。
 僕はゴミ袋をいくつも用意して、手と足と胴と頭をひとつひとつに分けていれました。
 想いが二度と再生しないように。


   終



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このストーリーに関するコメント

18/03/19 文月めぐ

『人形。』拝読いたしました。
人形の実際の姿を知った「僕」が相当ショックを受けたことがラストで伝わってきました。
「ひとつひとつに分けていれました」という部分、怖さを感じました。

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