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山上不動さん

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 素敵なおくりもの

18/03/16 コンテスト(テーマ):第154回 時空モノガタリ文学賞 【 復讐 】 コメント:0件 山上不動 閲覧数:450

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 遠い昔、とある裕福な男が「いつかお前はジョージという男に殺されるだろう」と、高名な占い師に予言された。その占い師は、死の予言において極めて高い的中率を誇っており、『死神』と呼ばれ忌避されるほどの腕前を誇っていた。
 焦った男は、自分の近所に住んでいる外国人をかたっばしから追放した。幸い彼は資産家だったため、金や人脈の力で人々を追い払うことは容易であった。しかし、それでも男の焦燥感は消えることはなかった。
 殊更に臆病だった彼は、金や発言力を駆使して、自分の住むこの地に外国人が居つかないように、引っ越してきた者たちを村八分にしたり、過激な嫌がらせをしたりしては追い払うのだった。特に、ジョージという名前の外国人は徹底的に街から排除した。住民たちは、強い権力を持つ男が恐ろしく、誰も逆らおうとはしなかった。
 幾星霜を経て、外国人は一人としていなくなり、男の焦燥はようやく消え去ったのだった。
 その代償として、男は友人も恋人も家族も失った。『予言』からくる恐怖が、もともと疑心暗鬼だった性分に拍車をかけ、半ば彼を狂人に仕立てた。
 恐慌に陥った自分から離れていった人々のことを、今更ながら男は恋しく思った。その度に、言いようのない孤独が彼の胸を締め付ける。当初は怯えから来る混乱が、まともに思考させることを許さず、彼はただただ恐怖のとりこだった。しかし、流れ続けた長い時間が、急速に彼の頭を冷やしていった。
 広い邸宅に一人、椅子に座り呆けていると、窓の外、向かい側の家のドアを配達人がノックするのが窺える。ドアから出てきた夫人が、配達人から荷を受け取り、温かい微笑みを浮かべたまま家へ戻るのを見ては、男は、狂おしい気持ちで拳を握った。
 ――ああ、荷が届くことの幸せを、今日まで気づけなかった己が憎らしい。荷が届くということは、自分以外の誰かが自分を想ってくれているということだ。決して自分が孤独ではないということの証だ。ああ神よ、どうかこの孤独な男をお救いください。寂しさという耐え難い渇きを、どうか潤してください。
 どんな些細なものでもいい。どうか、素敵なおくりものを、私にください――


 男が孤独に苛まれるようになってから半年後、思いもよらない出来事が起こる。
 ある日のこと、男の下に、花束を手にした配達人が訪れる。何事か、と驚いた男は玄関に出た。
「おくりものです。主人。どうぞお受け取りください」
「おくりものだと? 馬鹿な。俺にそんなものが届くはずがない」
 否定の言葉を紡ぎながら、その声は喜びに震えていた。荷が届くということは、自分を想う誰かが存在するということだ。
 その事実は彼を震わせ、朽ち果てた砂漠のような心に新鮮な真水が満ちていくかのようだった。
「存じております。あなたは疑心ゆえに人間関係の構築をはばかっておられるのだと」
「そうだ。今や俺には親すらいない。ならば、天涯孤独であるはずの俺に荷が届くなどありえぬことだ」
「それがそうでもありませんよ、主人。あなたは孤独などでは断じてない」
「なんだと。貴様に何が分かるか」
 激昂しかけた男に、配達人はあくまで微笑して告げる。
「いいですか主人。人間関係は何も血縁や、旧知であること、親しい関係であることだけがその条件を満たすわけではない。何事にも例外はあります。そうですね、例えば」
 敵対関係、とか。
 小さな呟きに、なんだと、と問いかけた瞬間、胸部に焼ける様な激痛が走る。
 自分の左胸から包丁の柄が生えているのを、男は見た。
「き、さま」
「私の姓は北条、名前は譲治(じょうじ)。あなたが村八分にして一家心中に追いやった、スミス家の養子です。此度はささやかな復讐に参りました。以後よろしく」
 血だまりに倒れた男は、視覚が赤く染まっていく中で、あらゆる感情が飽和しては崩壊するのを感じた。
 痛い。痛い痛い痛い痛い。血が止まらない。思考がままならない。身体が、まるで氷のように冷たくなっていく。
 俺は、死ぬのか? だが、なぜだ。
 もう何も、怖くない。もう僅かも、孤独を感じない。
「死の恐怖も孤独の苦しみも、私は知っている。だからこれは復讐であると共に、哀れなあなたへの、私からの餞別であることをご理解いただきたい」
 柔らかく笑った彼は、返り血で濡れた花束を、親の仇である男へと捧げた。
「おくりものです、主人。『苦痛からの解放』です。もはや生きることの恐怖も寂しさも、あなたを苛みはしない」
 どうか、安らかに。
 男が聞いた最後の声は、花のように優しかった。


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