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土地神さん

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毛を買う悪魔

18/03/05 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 土地神 閲覧数:375

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 今日はいい契約をした。契約といっても仕事のことじゃない。俺の前に悪魔が突然現れて「毛が欲しい、毛を売ってくれ」と頼んできたのだ。
「毛が欲しい? おいおい、どこにそんなふざけた要求をする悪魔がいるんだ。結局は俺の魂が目当てなんだろう? 今どき騙されると思ってんのか。帰れ帰れ」
「いやいや、本当に毛が欲しいんだ。実はこっちの世界で魔術用の人毛が枯渇しててな。早い話が、売ると儲かるんだ。地獄の沙汰もなんとやらというやつよ。俺がお前から取った部分の毛はもう二度と生えないが、べつに一気に全部じゃなくていいし、毎日少しずつ毛をくれればいいんだ。報酬だってちゃんと払うぞ。金額はいくらでもお前次第だ。どうだ、悪い話ではなかろう?」
 俺は薄毛の家系で、今は頭もフサフサだがそのうち禿げるのは分かり切っている。だから髪がなくなってもまぁ平気だ。それにもうヒゲやむだ毛の処理をしなくて済むなら楽だし、その上カネまで好きなだけくれるなんてこんなうまい話はない。俺は「分かった、いいぜ」と言いながら指を一本立てた。
「一日十万円か、交渉がまとまったな」
「違う違う。悪魔と取引するんだ、そんな安いわけがないだろ。一億だよ」
「一日一億円だと!? なんと強欲で罪深い人間だ。地獄に堕ちても知らんぞ」
 悪魔はヒュッヒュッと不気味な笑い声を立てたが「まぁいい、どうせ口座の数字をちょいといじるだけだしな。では契約成立だ。明日から頼むぞ」と言うと煙と共に消えた。

 翌朝、目を覚ました俺は布団から腕を出してスマホをひっつかむと預金口座をチェックした。――確かに残高が一億円増えている――。昨日の出来事は夢ではなかったのだ。一日一億、十日で十億……悪魔富豪の誕生か。俺は唇の端を吊り上げて笑い、寝転んだまま「ああ俺俺、今日で辞めるわ」と会社に電話を入れた。
 頭髪や体毛は思ったほど急激には減っていかなかった。しっかり見た目の配慮までしてくれる悪魔、いい奴じゃないか。俺は大金をばらまいて毎日毎日おもしろおかしく豪遊し、それは一週間二週間と続いた。
 しかし、四週目に入った頃から、俺はなぜかコンコンと空咳をするようになった。風邪でもひいたんだろう。はじめはそう思っていたが、五週六週と日を追うごとに咳は悪化していく。そしてついに、脂汗を垂らしながら喘息のような発作で何時間も咳きこみ、呼吸も首をしめられているように苦しく、胸に鋭い痛みまで感じるようになった。
 どうも本格的にヤバイ病気にかかってしまった。焦った俺はカネにものをいわせ、強引に大学病院に緊急入院して全身を徹底的に検査させた。カネならいくらでもあるんだ。治らないわけがない。だが、医師の診断を前にして俺は、絶望的なその結果にベッドの上で目を剥き、天を仰いだ。
「こちらの画像の通り、気管から気管支にかけて生えているはずの線毛が次々に消え失せております。そのため空気中の有害物質や異物を肺から除去できなくなり、酸素を取りこむための肺胞がダメージを受け、ほとんど機能しておりません。まことに申し上げにくいのですが……このような症例は世界的に見ても例がなく、残念ながら治療法は――」
 あの悪魔の野郎、毛を売って儲けるなんてマヌケなことを言いながら、本当の目的は隠していやがった。やっぱり狙いは俺の魂だったんだ。俺は、やつにはめられた……。
「なんと強欲で罪深い人間だ。地獄に堕ちても知らんぞ」
 そう言う悪魔が、俺の頭の中で、ヒュッヒュッと不気味に笑った。


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