華満零さん

発表は初めてです…。

性別 女性
将来の夢
座右の銘 自分に限界をつくるな

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ハル

18/02/24 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 華満零 閲覧数:415

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リビングのお気に入りの座布団の上で、日向ぼっこをする、至福の時間。窓越しに差してくる温かい光に、うつらうつらしていた。春眠暁を覚えず、だなんて前は思わなかったけれど。微睡んでいると、パソコンに向かっていたはずの妹、美緒が、隣に座っていた。
「今日は暖かいねえ…ハル、散歩でも行こうか」
その声に、はいよ、と返事をして腰を上げる。
最近少し体がいうことを聞かなくなってきたけれど、頑張れるところまでは行ってみようと思う。大好きな、美緒のために。
小さい頃から歩き続けてきた川沿いをふたり、並んで歩く。相変わらず空気は冷たいけれど、少しずつ春の匂いが漂ってきている。柔らかな陽射しに目を細めて、一度、大きくあくびをした。
「春も近いねえ…」
くしゅん、と小さな音が聞こえてその方を見る。風邪?と心配になるけれど、美緒は笑顔で首を横に振る。
「最近、花粉症になったみたいで。マスクしないといけないね」
ならいいのだけれど。でも、花粉症は悪化すると本当に辛いらしいから、病院、行ってもらわないと。
昔はとても体が弱くて、私と散歩に行くことも滅多にできずによく泣いていたっけ。懐かしい思い出に想いをはせながら、ゆっくりと、歩いていく。ふと、上を見ると木の枝についた花のつぼみが、少しずつ膨らんでいる。春になれば、薄い桃色のきれいな花を咲かせて、普段は静かなこの川沿いもにぎやかになる。私はその喧騒が少し苦手だけれど、あの小さな花びらを追いかけるのはとても好きだ。
所々で近所の人たちに挨拶をしながら、川沿いをぐるっとまわり、また来た道を引き返す。いつもの川、いつもの道、いつも会う人たち。そういった日常に、小さな幸せがあるんだなと、最近思うようになった。だいぶ考え方も丸くなったし、もう私も長くはないのかもしれない。
家に着くと足を拭いてから中に入る。そしてまた、お気に入りの座布団の上で、日向ぼっこをするのだ。
「ハルは日向ぼっこ好きだもんね。」
美緒は私の頭をなでながらそう言った。そうだよ、悪い?と返すとあの薄桃色の花を連想させるような顔で笑った。私は、本当に美緒の笑顔が大好きだ。もうそろそろ、泣かせることになりそうなのはとても辛いけれど、それは神様が決めることだから、私はその日まで美緒を笑わせることに徹しようと思う。
そして、その日は唐突にやってきた。
朝からあまり食欲もなくて、なんとなくだるかった。心配かけまいと布団から出て、いつもの場所へ行こうと歩みを進めた。その瞬間、足元から崩れ落ちた。
「ハル!?ねえ!!」
美緒の叫びが聴こえる。大丈夫だよ、と立ち上がろうとするけれど、まるで力が入らない。私は美緒に抱きかかえられていつもの座布団に寝かされた。これは、もうだめかも。ごめんね、美緒。私は、最期まで、美緒のそばにいられないんだ。どうしても、乗り越えられない壁があるの。でもね、最期がにみる、顔が、泣き顔なんて嫌なんだ。美緒、私のわがまま、聞いてくれるかな。私はしゃべろうとして、口を開けた。
「なに?ハル、何か言いたいの?」
と顔を近づけてくれたから、これ幸いと言わんばかりに頬をペロっとなめた。泣いていたせいで、少し塩辛い。
「こんな時に何してるの!くすぐったい…で…」
はっとした顔になり、
「もしかして、笑ってって言うの…?笑うから、お願いだから、生きててよ。また散歩行こうよ、桜の花見るんでしょ!?」
さすがずっと暮らしてきただけあるよね。でもね、無理みたい。だって、とても眠いの。もう、少しずつ見えづらくなってきてる。泣き笑いみたいな顔だけれど、美緒は精いっぱい笑ってくれた。いつもの満面の笑みではないけれど、わがまま聞いてくれただけでいいか。
ありがとうね、今まで一緒に生きていてくれて。その笑顔が、最高のご褒美だよ。だって、私、人間の言葉話せないのに。ちゃんといつもわかってくれた。最高の妹で、お姉ちゃんで、ママだったね。私は、とても幸せだった。
「ハル、ありがとう…」
最期の言葉、ちゃんと聴こえたよ。
あれから10年が経って、私も結婚した。夫とは犬を飼おうって決めていた。ハルを看取ってから、しばらくは何も手につかなかったけれど、ハルがいたから乗り越えられたこと、沢山あった。だから、もし子どもが産まれたときに犬がいたら、とてもいいな。そう思って相談したら、もちろん!と言ってくれた。なんだかその笑顔がハルに似ていて、思わず私は笑ってしまったのだけれど。それに、夫も言ったのだ。ハルの写真を見た瞬間、
「これ俺に似てない?」
って。写真の中のハルも、笑っているように見えた。良い人と一緒になったね、って言ってくれてるみたいに。
「あ!ナツ!それ未菜のタオルケット!パパ、ナツから取り返して!」
この幸せこそが、ハルを看取った報酬…ハルからの贈り物なんだって信じてる。


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