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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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賭けの報酬

18/02/22 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:506

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 戦争というのは、人を殺すことだということがやっとわかった。俺にとって縁もゆかりもない人間に、情け容赦なく銃弾を撃ちこむことなのだ。
 兵士になって一週間後に、俺はそのことに気づいた。兵士になった理由はただひとつ、くっていくためだった。そしてその俺の腹をみたすために、敵国の人間を撃ち殺すのだ。
 俺が派兵されたさきは、この地上の地獄ともいわれている最前線だった。敵味方、毎日いったい何人命をおとしているのか、数えていたらきりがないほどだった。
 そりゃ俺だってはじめのころは、人を殺すことには抵抗があった。目の前で傷つき、もはや抵抗するすべもなくし、こちらをみて懇願する敵の人間をみて、ためらわずに銃の引き金を引くにはそうとうな決断力を要した。
 やらなければ、やられる。それが戦場の理論だということは、いわれなくてもわかっている。生き残っている仲間の兵士たちはみな、その理論をかたときもわすれなかった連中だ。一秒でも躊躇したばかりに、頭をふきとばされたやつはいくらでもいた。
 弾丸が空気を切り裂いてかすめすぎてゆく。自動小銃の連射においまくられるうち次々に、仲間たちが倒されてゆく。次は俺の番だと、何度覚悟をきめたことだろう。弱気になることはゆるされなかった。いったん臆病風にふかれたらさいご、どこにいっても惨めににげまわるはめになるのだ。
 入隊後二週間目には、俺はすでに何人もの敵兵の命を奪っていた。一人1ドル。仲間たちととりきめた、それが賭けの報酬だった。やつらは俺たちと同じ人間ではない。1ドルの賭けの対象にすぎない。射的場の的なのだ。敵兵をまえにして銃の引き金を引くときはだから、一人やったら1ドル、1ドル儲かるのだと、何度も何度も強く自分にいいきかせた。
 戦場で敵をみかけたら、頭に1ドル紙幣をおもいうかべる習慣がついた。なぜかそれはズボンのポケットから取り出した、くしゃくしゃの紙幣だ。撃ち殺したら仲間たちがかけよってきて、1ドルをてわたしてくれた。また仲間のだれかが敵兵を射殺したときは、こんどは俺が1ドルをてわたす番だった。
 以前なら、敵の人間が血しぶきをあげて死んでゆくのを目の当たりにして、やはり一抹の哀れみというものをおぼえた。しかし一人撃って仲間たちから1ドルをせびりとれるようになってからは、もうそんな感情もわかなくなった。その金で買ったビールは、またひとしおの飲み心地だった。
「よし、今日は10ドルいただくぜ」
「それなら俺は15ドルだ」
 戦うまえから俺も仲間たちも、賭けで儲ける金額を競い合って、闘志をたぎらせた。
 戦場をゆく兵士たちの顔にはみな、一様にどすぐろい悲壮感がただよっている。いつおわるともしれない熾烈な戦いに、神経に変調をきたすものが続出した。死にさえしなければ銃創を負って帰還できる可能性にすがりつくものも結構いた。しかし俺と仲間の兵士たちは、果敢に敵兵を追いつづけた。小屋をみつければ手榴弾で爆破し、とびだしてきた連中が兵士であれ何であれ、見境なしに撃ち殺していった。人間ひとり、だれであれ賭けの対象だった。
 俺をふくめた5人の兵士たちは、勢いのおもむくまま敵のひそむ繁みのなかに突入していった。すでに数多くの兵士やゲリラたちを殺害していた。俺もみんなも、あとで賭け金をまちがわないため正確な数を頭に刻みこんでいた。そのことに誰もが夢中になるあまり、俺たち全員はこれまできたことのない奥深い場所にふみこんでいることに気がつかなかった。
「妙にしずかだな」
「俺たちをおそれて、みんなにげちまったんじゃないのか」
 俺たちは銃の引き金にかけた指の力をぬくことなく、油断のない視線をあたりにこらした。
「どうやら、おまえのいうとおりみたいだな」
 あたりに敵兵の気配がないのをみて、俺は銃をもちなおして一息ついた。
 そのとたん、にわかに木の葉がざわめいたとおもうと、木のうえからいっせいに銃声がきこえ、仲間たちがばたばたと地面にたたきつけられた。俺もまた、首すじにするどい痛みをおぼえて、膝からもろくもくずれおちた。
 枝の上からゲリラたちが、地面にとびおりてきた。まだ俺に息があるのをたしかめたひとりが、仲間にむかって声をはりあげた。
「1△×、1△×」
 それがこの国の通貨で、つまり俺ひとりの命がその1ドルの何万分の1の賭けの対象だということがわかったとき、最後の一発が轟音とともに俺の胸をつらぬいた。


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