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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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穴掘りゴンゾー

18/02/15 コンテスト(テーマ):第153回 時空モノガタリ文学賞 【 報酬 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:463

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 ゴンゾーが地面に穴を掘りだしてから、かれこれ一時間がたった。
 きわめてゆっくりとした動作でスコップを扱うその姿は、みていてあくびがでるほどのんびりしていた。むろんそんなかれのふるまいを見物するような暇人はどこにもいなかったが。
 日中ともなれば彼のいるところは遮るものとてなにもなく、肌は焼けつくように熱くなった。
 夕方になってもまだ、ゴンゾーは穴を掘っていた。穴はすでに、彼の膝ぐらいまでの深さにたっしていた。
 昼のあいだに、この辺りをとおりかかったのは、頭に果物かごを支えた若い娘と、顎鬚を蓄えた商人風の男だった。
 娘はゴンゾーには一瞥もくれることなく、とおりすぎていった。彼女は美人で、市場にいけば店の男たちがこぞっていい値で果物を買ってくれた。土まみれのゴンゾーなど彼女にとっては、穴のそばに堆積した土の山同様、なんの価値もないものだった。商人のほうも、どうみても金などもっていそうもないゴンゾーには一言もかけることはなかった。
 夜になった。昼とは裏腹に、冷たい風から身を守るためにゴンゾーは、穴の中に猫のように丸くなって寝た。
 朝目がさめると、頭上はびっしりと小枝におおわれていた。頭を突き出そうとすると、驚いた鳥が翼をはばたかせて飛びあがった。ゴンゾーの掘った穴を、巣にするつもりだったらしく、枝の密集した場所に卵が三個、産み落とされていたのをみて、さっそく彼は朝食にあずかった。
 その日もゴンゾ―のスコップの、土を削りとる単調な音が乾いた大地にひびきわたった。スコップに足をのせ、体重をかけるそのしぐさが、まだどこかたどたどしかった昨日にくらべると、すこしは上達していた。
 昼をすぎたころ、一人の男がとおりかかった。
「精が出るな。手間賃はいくらだ」
「これは仕事じゃないんだ」
「道楽で穴掘りか」
「こうして掘っていれば、いつか誰かが仕事をあたえてくれるとおもって」
「ずいぶんとまた、気の長い話だな」
 仕事にありつけるとでも思っていたのか、失望もあらわに男は離れていった。
 またしばらくして、ちかづいてくるものがあった。
「この穴、あんたが掘ったのか」
 痩せさらばえた老人だった。
「そうですが」
「わしにゆずってくれないか。ただとはいわん、といいたいところだが、あいにくと一文なしでな」
「こんな穴、なににつかうのです」
「なに、わしの墓穴さ。わしはもうじき寿命がつきる。野ざらしじゃ、死体を獣にくいちらされるだろう。――そうだ、いい考えがある。わしを埋めれば、大地は栄養をえて、いろんな作物を実らせる。わしにはわかるんだ。何年かさきにこの土のうえから、黄金の果実をたわわにつけた梨の木がすくすく育つのを。その梨の実を駄賃にどうだ。食べるもよし、市場に売るもよし。あんたの好みにしておくれ」
「いいですよ。どうかこの穴をつかってください」
「ありがとう」
 二人はかたく手をにぎりあった。
 男が自分から穴にはいり、まだ生きていることを告げるために一定時間がくると穴の中から、ひょいひょいと手をあげていたのが、そのうちあがらくなくなり、ゴンゾーがのぞいていみると男は、穴の底に足を組んで息絶えていた。ゴンゾーは男の上から土をかけてやり、さいごに手をあわせて彼の冥福を祈った。
 梨の木が育つのは何年かさきだろうから、ゴンゾーはまたべつの場所に穴を掘りだした。わずかに場所をかえただけなのに、こんどの穴は、少し掘り返しただけで、底から水がわきだしてきて、澄むのをまって口をつけると、たまらなくうまかった。水のにおいをかぎつけて、たちまちあたりからサルやキツネやそのほかいろいろな動物が姿をあらわした。ゴンゾーは、かれらが穴に身をかがめて水をのむの様子をじっとながめていた。たくさんの鳥もあつまってきた。さいごにみあげるような熊が出現し、ひとりでぜんぶのんでしまうのではとおもえるほどながい時間、湧き水に口をつけていた。
 ゴンゾーは、だれでも水がのめるようにと、その穴はそのままにしておいて、またべつの場所に移動して穴を掘りだした。
 そんなふうにしてゴンゾーは、つぎからつぎと穴をふやしていった。いったいいくつあるのやら、掘った彼じしんにも見当がつかないほどだった。穴の多くは鳥や獣たちが住処につかっていたが、掘り終えた穴に関してはゴンゾーは、ほとんどといっていいほど関心をよせなかった。
 ゴンゾーはいまもせっせと穴を掘りつづけていた。
 こうしていればいつかだれかから仕事の口がかかることを、願う気持ちはひとつもかわっていなかった。いのちがつきたときは、最後に掘った穴を自分の墓にするつもりでいた。そこからのびだした木がいったい何の実をつけるかを想像するのが、いまの彼の一番の楽しみだった。






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