1. トップページ
  2. 宴(うたげ)

そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

投稿済みの作品

2

宴(うたげ)

18/01/29 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:2件 そらの珊瑚 閲覧数:451

この作品を評価する

 わぁ、みんな久しぶり。何年ぶりかなあ。中学を卒業してからだから……いやだ、15年ぶり? でも変わらないわね。お世辞じゃないわよ。
 リナちゃんも花ちゃんも結婚して子どもも産んだんだってね。おめでとう。田舎は結婚が早いって? そうなの? だったら私も東京なんか行かずにここに残ってたら今頃結婚してたのかなあ。なんてね。そしたら作家なんか因果な商売しないでみんなみたいにのんびり奥様やってたかもね。作家なんてね、華やかに見えるかもしれないけど、地味なお仕事よ。賞を取ってちょっと本が売れても、次は書けるかなって常に不安だしね。
 えっ? 買ってくれたの? 私の本。ありがとうね。面白くて一気に読んでくれたんだ。嬉しい。でもブラックな内容だったでしょ。性格悪い人ばっかり出てきたでしょ。読後感、悪かったでしょ。書いた私がいうのもなんだけど、ああいうのが売れるのは、人間の裏側を暴いてみたいってみんな思ってるのかなあ。

 実はね、次の小説は、私が小、中学校を過ごしたこの街を舞台に書こうかなあって思ってるの。
 登場人物は三人の女の子。そうよ、リナちゃんと花ちゃんと私がモデルなの。いい? 良かった。今回の同窓会に出席したのも、そのことで二人の承諾を得たかったからっていうのもあったの。もちろん名前は変えるわよ。でもこの街に昔から住んでる人だったら、誰の事かバレちゃって、噂になるかもよ。

 私の父が、東京から故郷であるこの街に戻ってきて、『パティスリー白井』を開店したのは、私が小学校2年生の時だったわ。心細かったけど、すぐにリナちゃんと花ちゃんが友達になってくれて、本当に嬉しかった。私たち親友になろうって言ってくれたよね。
 ねえ、覚えてる? 私の12歳の誕生日パーティーの事。友達10人くらい招待してさ、二人も家に来てくれて祝ってくれたよね。なのに、酔っぱらったおじいちゃんがよろけて、こともあろうに私のバースディケーキの上に尻もちをついちゃったじゃない。まるでスローモーションのようにその時のおじいちゃんのよろける姿、今でも鮮明に覚えているの。父が作った二段のケーキはめちゃくちゃ。潰れた苺でおじいちゃんのズボンは赤く染まってた。悲しかった。そのあとの事は不思議なのだけど、覚えていないの。人間って酷いショックを受けると脳が記憶を消すってほんとかもしれないわ。ねえ、あの時あのケーキはまさか食べなかったわよね。
 でももっと悲しかったのは、翌朝登校して、教室の黒板を見た時よ。
『白井さんのおじいちゃんはアルコール依存症』
 私が泣いてたらリナちゃんと花ちゃんが慰めてくれたっけ。
 あの時、二人の指先が白く汚れてたよね。
 あれ、チョークだよね。
 黒板にあの文字を書いたのは、二人だよね。
 私を慰めながら、心で笑ってたんだよね。

 ついでに言っちゃうけど、おじいちゃんのズボンのすそをリナちゃんが引っ張ったのも、見ちゃったんだ、私。
 あの時はどうしても言えなかったの。でも今は言える。お酒は人の口を滑らかにするのかもね。ねえ、リナちゃんも花ちゃんももっと飲んで、飲んで。

 ――やっぱり、あなたたちがやったんだ。

 いいよ、謝らないで。もう時効だよ。

 でも何で? 東京生まれを鼻にかけて田舎生まれの私たちを馬鹿にしてた? 

 えーそんなことないよ。

 いや、でもあったのかな。二人がそう感じてたのなら、無意識にそう思ってたのかも。

 でも二人には感謝してるんだ。人間の裏を小学生の時に知ったことが、作家として糧になってる気がするの。

 ただおじいちゃんには悪いことしたなあって思ってる。
 あの一件以来、私が県外の高校に進学することになり家を出るまで、まともにおじいちゃんと口をきかなかったから。
 おじいちゃんはあれから酒は一滴も飲まなかったらしいわ。アルコール依存症かどうかは知らなかったけど、確かにお酒は好きだった。可愛い孫の誕生日を台無しにしたことが、よほどこたえたんでしょうね。天国でも禁酒してたりしたら可哀想過ぎる。

 やだ、二人とも泣いてるの? 
 お願いだから書かないで? 
 おかしな人たちね。さっきは、いいって言ったくせに。

 さあ、宴は始まったばかりよ。
 おじいちゃんの分まで飲みましょうよ。
 今夜は他にも面白い昔話がたくさんあるんだから。


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

18/02/04 文月めぐ

『宴』拝読いたしました。
華やかな女の子の裏側って、本当に恐ろしいものがありますよね。
淡々とした語り口で描かれていることで、怖さが増したように思います。

18/02/05 そらの珊瑚

文月めぐさん、ありがとうございます。
宴にはお酒がつきもの、という発想で書き始めたら、ちょっとした復讐劇というか、
どろどろとしたお話になってしまいました。
復讐される側としては怖いですよね…。
すべてを一人称で語らせることで(つまり読者にむかって語る)物語を進めてゆくのは難しくもあり、ちょっと楽しくもありました。

ログイン