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nekonekoさん

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スナック 鏡

18/01/29 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:2件 nekoneko 閲覧数:420

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 真一にとって、このスナックに入るのは初めての事であったが、実際、いざ入って見ようと思うと何故だか妙に変な躊躇いが生じていた。右手を少し伸ばせばドアノブがある。「ここのドアノブを回すだけでいいんだよな。そうすれば中へ入れるんだ」口元から漏れたのか慰める様な自分の声が耳元に聴こえた。真一が、この店を知ったのは、3日前であった。何時もの通り道、その通りから脇道に入って奥まった所。気にして見なければ簡単に見落としてしまいそうなお店。だけど、この店から出って来たであろう客の誰しもが、笑っていたり。泣いていたり。或いは考え深い表状をして見せていた。その光景は真一の心を強くつかんだ。「どうして何だろうか」探究心からの疑問と言うよりは興味本位の方が強かったが。しかし、実際、店の前に立って見ると初めの頃の勢いは失せてはいたが。それでも、お客さん達の表情は気になっていた。えぃ。ママよ半分投げ槍の様に店のドアを開けた。
 店の中は至って普通の作りだった。テーブル席が2つと後は、カウンター席があるだけだった。ただ、違っていたのは何人かいる客の前には鏡が
置かれていてお客の人達はその鏡を眺めながらグラスを傾けていた。ある人は啜り泣きながら。ある人は笑いながら。ある人は溜息を吐きながら。
 真一が立ち止まったままでいると「初めての方ですよね。どうぞこちらへ」店の主人から声が掛かった。真一が席に着くと確信犯的な笑顔を見せながら主人が話し掛けてくる「初めて来られた方皆さん、あなた様の様にそこに立ったままぼぉとしておられるのですよ。でも仕方ないんですよ、うちはね。」「でもどうして、皆さん、鏡を前にして飲んでおられるのですか?」主人は急に畏ると「それは、皆様にとって今日の最高の一杯を飲んで頂くためにですよ」「?」「わからなくても無理はありません。先ずはこの鏡を覗いて見てください」主人は真一の目の前に鏡を置いた。
 真一は言はれるがまま鏡を覗き込んで見た。そこには当然の様に自分自身の顔が映っていた。「初めはただの自分の顔だけしか見えていませんが、しばらくすると別の何かが見えて来たり、何かを感じたりして来ますから」「そいう物なのですか」と言って真一は鏡に映っている自分の顔まじまじと眺めて見た。ちょと疲れている感じがした。髪の毛に白いものが見えた。こうやって自分の顔を見つめるように見るのは、しばらくぶりのような気がする。朝の出がけに髪の毛を直したり、髭を剃ったりする時位しか自分の顔を見る事は無かった。そう言えば、今日、会社でとか。あいつ元気かなとか。不思議と鏡に映った自分の顔を見ていると色々な事も想い浮んだりして来る。しばらく鏡を見つめていた。「お客さん。どうぞ」見るとカウンターの上に透明色の強い黄色い液体が入ったグラスがおかれていた。 真一が口に含むと少し強めのラムの味がした。「どうですか?。このお酒、今のあなた様の心境に合っていると思うのですが」「確かに合ってますよね。でもどうして、このお酒を選ばれたのですか?」真一はもう一度口に含ますとラムの味が口の中一杯に広がて来る。そして、今の自分の心境にも合っていると間違えなく思えた。「それは、皆様との暗黙の了解と言いますか。実は、鏡を覗き込んでいる皆様のお顔を遠巻きに眺めながらその表情から決めさせてもらっているのです。まぁ、多少は失礼かとは思いましたが、それでも皆さん来てくださりますからね」「正に暗黙の了解ですね。実は、今日、僕がここにきたのは・・。」数日前に見た日の出来事を話して見た。店の主人は真一の話しに耳を傾けた後、「まあ、それはそれで仕方ない事何ですよね。私も初めはそいうことを狙ってやった訳では無いですし」「それじゃあ、たまたまの偶然ということですか」「はい。それでも皆様に幸福を感じられる時間になってくれればと思い」と少し照れたような表情を店の主人はした。見渡せば店の中にいる客は目の前の鏡に自分を映し込んでいる。『人の顔に歴史ありという奴かな』真一の口元から洩れると同時に悲鳴のような泣き声が聞こえて来た。思わず真一は声のする方に目を向ける。声の主は、二つ隣席の男だった。「オレは、オレは・・・自分の顔に戻りたい。戻りたいんだ。」泣きじゃくる声の中から真一の耳元に聴こえて来た言葉だった。男は店主に宥められる様にして外へと連れ出されて行く。一瞬の騒乱は静まり静粛さが戻って来た。何事ぞと鏡から顔を上げていた人達は又自分だけの悦の時間へと戻って行く。「時たまおりましてね。嫌な事だったんでしょうけど、それ思い出すと暴れ出す人が」店主はさして珍しくもないという表情をしてた。 
 その日から数日が過ぎた。ある日、朝刊の一面に顔を変えた犯人が自首して来たと書かれていた。自主の理由は罪を償って自分の顔に戻りたいからと書かれていた。


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このストーリーに関するコメント

18/02/03 凸山▲@感想を書きたい

拝読しました。
とても面白い設定でした。自分の顔を眺めながらお酒を飲む……何だかナルシストな話に思えますが、主人公の呟いた『人の顔に歴史あり』という見方に感心してしまいました。じっくり自分を見つめる機会をお酒の席で、というのは言い得て妙ですね。アルコールで「我を忘れる」ことなく「我に返る」、という意味でも巧みな構成だと感じました。ありがとうございました。

18/02/04 nekoneko

 凸山▲様、お読み頂きありがとございました。前回のコメントも踏まえて今回の物語を考えて見ました。勿論、人様のお目に触れる前に自分で間違いを見つける所存ではおりますが私も人間なので思いも寄らない間違いを犯してしまうかも知れません。その際には御指摘下されば幸いです。今回は評価までしていただきありがとございました。又、頑張ります。それでは。

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