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ケイジロウさん

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青汁ハイ

18/01/29 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 ケイジロウ 閲覧数:268

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「いかがでしょうか」
 健太は眉間にしわを寄せて、口内に入っている液体の正体を暴こうとしていた。少し間を置き、一度頷いてから言った。
「うん、これでいい」
「かしこまりました」
 蝶ネクタイをつけた男はロボットみたいに会釈をした。そして祥子の前に置かれたピカピカのグラスにワインボトルをソムリエ風に傾けた。グラスが少し満たされると、急いでボトルを新体操の選手のようにひねり、ボトルを立てた。工場のロボットでもできそうだが、本人はそれをソムリエにしかできない技だと思っているようだった。そして、ボトルをテーブルに着地させると、幽霊のようにどこかへ消えていった。
 ダサッ……祥子はグラスを手に取ると一気に赤い液体をあおった。
「おいおい、何やってんだよ、生中じゃないんだぜ。2014年のボルドーなんだぜ」
 祥子はボトルを掴むと自分のグラスになみなみとついだ。
「いる?なくなっちゃうわよ」
 健太は「意味不明」とフランス人風にポーズをとると、液体を一口舐め、ナプキンで口元を拭いた。
 ちっちゃな音でジャズかなんかが店内に流れていた。隣の席ではOL風の二人が一つ一つの料理を裁いていた。

 平べったい岩の上に置かれた錆びついたマグカップに、順平はパックワインを傾けた。
 なみなみとつがれた白ワインがこぼれないように、祥子は顔を近づけてマグカップに口をつけた。
「いかがでしょうか」
 順平がソムリエ風に訊いた。
「けっこうなお味でございますわ」
「めるしー、まどもあぜーる」
 順平もマグカップを傾けた。
「うふふ、なによこれ、もっとマシなワインなかったの」
「何言ってんだ、ブルゴーニュ産だぞ」
「ウソばっか」
 順平はたき火に枝を放り込んだ。闇の中でオレンジ色に浮かぶ順平の口から煙草の煙がモクモクと広がった。祥子はそんな順平の横顔を眺めてニヤニヤしてしまうのだった。

「でさ、この前の話、考えといてくれた?」
 健太が5ミリ角に切った肉を口に放り込みながら切り出した。
「ん?なんの話?」
 祥子は肉を頬張りながら言った。
「だから、僕との結婚だよ」
「あ、そんな話もしてたっけ」
 祥子はワインで肉を流し込んだ。テーブルには二本目のワインが置かれている。
「結論から言うと、無理」
「えっ!?な、なんで?理由は?」
「う〜ん、一本目も二本目もあまりおいしくないのよ。たぶん三本目も、そして100本目も、1000本目もね」

「できたかな」
 順平はアルミホイルで包まれたかたまりをたき火の中から枝を使って取り出した。たき火から灰が舞い上がり、祥子のマグカップに入ったが、祥子はあまり気にならなかった。
「なにそれ?」
「本日のメインディッシュですよ」
 順平は、熱っ、熱っと言いながらアルミホイルをひらいた。中には、こげ目のついた玉ねぎに挟まれたカマンベールチーズがとろけだしていた。
「これ、どうやって食べるのよ」
「かぶりつくんだよ」
 順平は、熱っ、熱っと言いながらチーズサンドにかぶりついた。祥子もまねてかぶりついた。
「どうだ、うまいだろ」
「女として悔しいけど、おいしいわ、とっても」
 祥子は空になったマグカップを順平に向けた。
「はいよ」
 順平はパックを傾けた。が、もう空だった。
「空いちゃったみたいだ。じゃぁ次はボルドーにするか」
 と言い今度は赤のパックワインを取り出した。
「あっ、お客様、グラスを御取り替えいたします」
 そう言うと、順平はマグカップを二つ持って酔った足どりで近くの渓流に行き、バシャバシャとカップを洗い出した。祥子はそのすきに、座っていた石を順平の石よりに5センチ近づけるのであった。

「ちょっと、祥子、しょうこってば!起きて!」
「えっ!?」
「もうこんなところで寝ないでよ、よだれ出てるわよ」
 祥子はしばらく目をパチクリさせていた。店員が苦笑いをしながら祥子を眺めていた。
「ラストだって、何にする?」
「なんでもいい」
「じゃあ青汁ハイ、二つで」
 店員はリモコンを操作しながらどこかへ消えた。
 祥子は先ほどの青汁ハイに口をつけた。
 うん、悪くないわね、祥子はおしぼりでよだれを拭きながら玄人風に二度頷いた。


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