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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

性別 女性
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笑い酒

18/01/28 コンテスト(テーマ):第152回 時空モノガタリ文学賞 【 酒 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:389

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「結婚することになったの」
 彼女から珍しい飲みのお誘いだと思ったら、用件がとんでもない地雷のご報告だった。
「えー、まじでー、三島おめでとー!」
 表面上はへらへら笑いながら、手を叩く。
「ありがとう」
 嬉しそうに彼女は笑う。ああ、こんないい笑顔、初めて見たかもしれない。
 彼女に恋人ができたのは知っていた。だから最近、あたしとはあんまり遊んでくれなくなった。部屋を訪ねても留守のことが多かった。それをさみしいとは思っていたけれども、よかったなとも思っていた。
 彼女の前の恋が、叶わないまま終わったことを知っていたから。
 だけど、ああ、そうか。
 結婚、しちゃうのか。
「じゃあ、三島じゃなくなるの?」
「うん、錦戸」
「全然違うじゃん!」
 笑顔を作ってみせる。
「えー、そっかー。とりあえず、もう一回かんぱーい!」
 はしゃいで缶と缶をぶつける。
 彼女の家での飲み会。久しぶりだなって、思ってたのに。
「お店はー? どうするのー?」
「続けるよー、もちろん」
「そっか」
 彼女が経営している雑貨屋はこのままらしい。それは良かった。
「住むところはー? ここに二人で住むのー?」
「んー、ワンルームだしね。ここも賃貸に出そうかなって」
「えー、さみしー」
「ごめんねー」
 ああ、そっか。引っ越しちゃうのか。
 彼女は今、あたしの隣の部屋に住んでいる。このアパートの大家が、彼女だ。
「空いてる部屋に、旦那さんを呼べば?」
「まあ、一部屋空いてるけどねー」
 往生際の悪いあたしは、そんなことを言ってみる。
 実際に、彼女がこのアパートで新婚生活を送る、なんてなったら耐えられなくなるくせに。
 ぐいっとチューハイの缶を飲み干す。
 彼女が幸せなら、それでいい。それが一番大切だ。そう思う。本当に、本気で、そう思ってる。
 だけど、さみしいし、悲しいっていう気持ちは消えない。
 だって、一年半前から付き合いだしたそいつなんかよりも、もっともっと、六年前からあたしは彼女を知っているのに。好きなのに。
 新しい缶を開ける。
 お酒の力を借りたって言えない。
 あたしがあなたのこと、好きだってこと。
 あなたの恋愛対象に、同性が入っていないことを知っているから。
 だから、だけど、あたしはいつもより早いペースでお酒を煽った。
 笑うために。
「おめでとー!」
 へらへら笑って、あなたの肩を叩くために。
「峯岸、痛いって」
「ごめーん、えへへ」
「えー、なんで峯岸、そんなに酔ってるの?」
「うれしくってー!」
 お酒の力を借りないと、泣いてしまいそうだから。
 叶わないとは知っていたけれども、これで失恋が確定だ。
「ありがと、峯岸」
「もう一回、かんぱーい」
 はしゃいでみせる。
 これは、あなたへのお祝いのお酒。
 そして、
「献杯……」
「ん? 何か言った?」
「言ってないよぉー」
「もー、酔いすぎ」
「えへへ」
 これは、あたしの恋を弔うお酒。

 さよなら、六年間の片思い。


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